光をくれた人 : 特集
映画ライターも映画.comも引き込まれたこの《物語の力》
「きみに読む物語」「P.S.アイラヴユー」の“泣ける物語”が再び──
いま見てほしい、新たな“光をくれる”ラブストーリー
「ブルーバレンタイン」のデレク・シアンフランス監督が、世界的ベストセラー「海を照らす光」を映画化した「光をくれた人」が、5月26日に公開される。マイケル・ファスベンダー、アリシア・ビカンダー、レイチェル・ワイズら実力派俳優が集結、ファスベンダーとビカンダーの交際のきっかけともなったラブストーリーに、映画.comも映画ライターも引き込まれてしまった。
世界的ベストセラー原作×傑作ラブストーリー監督×演技を超えた主演ふたり
映画ライターよしひろまさみちは、「なぜ“この物語”に強く魅了されたのか?」
世界的ベストセラーが原作、傑作ラブストーリーを手掛けた才能が実力派俳優たちをそろえて映画化した本作に、ラブストーリー、ヒューマンドラマの映画解説で定評のある映画ライター、よしひろまさみち氏も大きく魅了された。見る者を強く引きつける“物語力”を支える3つの要素について、よしひろ氏が述べた。
世界42カ国で翻訳され、230万部超のベストセラーを記録した小説「海を照らす光」。原作者M・L・ステッドマンが描き出したのは、第1次世界大戦直後から第2次大戦後までの激動の時代に、自分らしい小さな幸せを求めながらも、運命のいたずらで引き裂かれてしまうある夫婦の姿を描いた感動物語だ。戦争の英雄として国に戻りながらも、誰にも干渉されたくないトムは孤島の灯台守の職を得る。そんなときに彼が出会ったイザベルと関係を深めるうちに、彼らは、お互いの存在が、自分の人生に一筋の光を与えてくれるものであることに気づく。2人が暮らす孤島の美しい情景、彼らの数奇な運命が生き生きと書かれており、その後の悲劇がいっそう衝撃的に。誰の心にも刺さるエモーショナルな展開に、ベストセラーも納得。
本作のメガホンをとったのは、デレク・シアンフランス。夫婦の悲喜こもごもと恋愛観の相違を見事に映し出した「ブルーバレンタイン」を手掛けた監督だ。彼だからこそ、ともいえるのが、「光をくれた人」が描き出すトムとイザベルの一生ともいえるほど長い時間の経過を、まったく緊張感を途切れさせなかったこと。「ブルーバレンタイン」も本作も、時間の経過が順通りで、夫婦2人の話をストレートに描くと退屈になりがち。だがそうならないのが監督の手腕だろう。本作は、彼らが遭遇する出来事の幸不幸によって適度な緩急がつけられ、2時間強の尺を感じさせない。それどころか、見終わった後に観客は、自分がトムとイザベルの人生の一部になったような気持ちにすらさせられるだろう。
この作品では、トムとイザベルはとにかく出ずっぱり。それに中盤から彼らの人生を左右する存在となるハナ、これら3人は愛憎を激情ではない演技で見せることができる実力派が必要だった。だからこそ、演技力には定評あるマイケル・ファスベンダーとアリシア・ビカンダー、それにレイチェル・ワイズがキャスティングされたことは、この作品にとって必須だったといえるだろう。特にトムとイザベルの出会い~結婚を描いた序盤を見ていると、観客までが恋をしている気分になるほど、みずみずしい演技にほほえんでしまう。これを見ていると、この共演を機に、実生活でも交際をスタートさせたファスベンダーとビカンダーがひかれあった理由がわかるような気がする。
愛し合うがゆえの“決断”──あなたはこれを「罪」と言い切れますか?
流れついた小さな命を“自分たちの子”として育てた夫婦に待つ結末とは……
第1次世界大戦後のオーストラリア。孤島ヤヌス・ロックに灯台守として赴任した帰還兵トム(マイケル・ファスベンダー)は、明るく美しい妻イザベル(アリシア・ビカンダー)と幸せな日々を送りはじめる。やがてイザベルはトムの子を身ごもるが、立て続けに流産と死産に見舞われてしまう。そんなある日、島に小さなボートが流れ着く。乗っていたのは、見知らぬ男の死体と、泣き叫ぶ生後間もない女の子の赤ん坊。赤ん坊に心を奪われたイザベルは、本土に報告しようとするトムを説得し、自分たちの娘“ルーシー”として育て始める……。
男の死体を人知れず丘に埋め、取り残されてしまった赤ん坊を我が子として育てる。客観的に見れば、それは法も倫理も踏み越えた「罪」でしかない。だが、戦争の傷跡で心を閉ざした孤独な男と、彼に再び生きる力を与えた快活な女が深く愛し合い、もうけた子どもを2度失った悲しみの果てに決断したことだとしたら、これを単純に罪と断じることができるだろうか。
「こんなことは間違っている」と知りながらも、失意の底にいる妻を救いたいという愛から、妻の申し出を受け入れる夫。赤ん坊にありったけの愛を注ぎ、幸せと生きる意味を取り戻していく妻。それから4年後、ルーシーは愛らしい子どもへと成長し、幸せの絶頂にいる夫婦の前に、偶然にも娘の本当の母親、ハナ(レイチェル・ワイズ)が現れる。トムとイザベルの決断は、果たして罪だったのか。深き愛を抱きながらも、再び葛藤にさいなまれる夫婦は、最も大切な存在を守るためにどんな決断をすることになるのか……。
鑑賞後、きっとあなたの心は洗われている──
愛の名作たちと同じ“あの感覚”が、見る者の心にぐっと染み込み
悲しい物語に心を痛められながらも、最後には優しい心洗われる救いがある。それは、映画ファンの心に残る愛の名作に共通した特徴だ。
ニコラス・スパークスのベストセラーを映画化した「きみに読む物語」は、傑作ラブストーリーとして挙がる1本。ライアン・ゴズリングとレイチェル・マクアダムスが演じた身分違いの若者たちの恋が、時を隔てた老人たちの愛につながっていくさまが見る者の心をとらえた。また、アカデミー賞女優ヒラリー・スワンク主演の「P.S.アイラヴユー」は、最愛の夫(ジェラルド・バトラー)を突然亡くして悲しみの底にいた主人公が、死んだはずの夫から届くラブレターによって生きる力を取り戻していく姿が描かれる。
人生が絶望に見舞われてしまったとき、人は何によって立ち直ることができるのか。それは、誰かが誰かを思うという、愛情の力に他ならない。本作「光をくれた人」には灯台守のトム、その妻イザベル、そして彼らが娘として育てたルーシーの本当の母ハナという3人の主要人物が登場するが、その誰もが、自分ではない誰かのために身を捧げようとする愛情に満ちている。それは男女の愛であり、親子の愛であり、さらには、他者を許すという普遍的な人間愛にもつながっている。「もし自分が彼らのような立場だったら?」と、3人それぞれの振る舞いと思いに自分を重ねながら、観客は物語の行く末を見つめることになる。映し出されるラストシーン、悲しみの向こう側に待つ温かな思いが、私たちの心にぐっと染み込んでくるだろう。