劇場公開日 2017年11月3日

ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 : インタビュー

2017年10月27日更新
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二宮和也×滝田洋二郎監督、初タッグ作クライマックスで見せた“至高のきらめき”

ラストレシピ 麒麟の舌の記憶」(11月3日公開)を鑑賞すると、無性にビーフカツレツが食べたくなる。主演・二宮和也がクライマックスでカツサンドを頬張りながら見せた表情に、メガホンをとった滝田洋二郎監督は深い感嘆の声を漏らした。そのワンカットが魂を揺さぶり、途方もない多幸感が全細胞を駆けめぐったからだ。(取材・文/編集部)

豪華キャストの“マリアージュ”!
豪華キャストの“マリアージュ”!

食べた料理の味を絶対に忘れない“麒麟の舌”を持つ天才料理人・佐々木充(二宮)が、1930年代の満州で天皇の料理番・山形直太朗(西島秀俊)が考案した“究極のフルコース”を再現するなかで、レシピに隠された謎を解き明かしていく姿を、現代と過去を交錯させ映し出す。絶大な人気と実力を備えた二宮、「おくりびと」で米アカデミー賞外国語映画賞に輝いた滝田監督ら、日本映画界を代表する面々が結集。職人芸ともいえる技術の粋を凝らし、完璧主義ゆえに転落した充が再生していく人間ドラマと、軍靴の音が聞こえる満州で巻き起こる歴史ミステリー、そして垂涎の料理の数々を描出してみせた。

初タッグとなった2人だが、その関係性は俳優と監督という立場を超え、親子のようにも、師弟のようにも見える。二宮が言葉を発せば、滝田監督がジョーク交じりのコメントで笑わせ、話題が際限なく広がっていく。互いの親しみと敬意が場を包み込み、笑顔は一時も絶えることがなかった。

前述のクライマックスは、二宮の提案により変更が加えられている。充が体験した“すべて”が込められた会心のシーンであり、滝田監督は「台本のセリフは『おいしいな』でしたが、実際には『うまい』に変えました」と説明したうえで、「『おいしい』は、食べ物に対する言葉。流れから見て、最後の言葉は食べ物だけではなく、人生、自分の知らなかった人の思い、そしてステップアップへの感謝でなければと思った」と、二宮に頼もしげな視線を注いだ。

調理シーンは自らフライパンを振ることも
調理シーンは自らフライパンを振ることも

そして二宮は、“一発OK”にかける信念をにじませる。シーンごとの撮影で最初に見せる演技を「できたて」と例えながら、「一発目が一番いいと思っています。自分だけしか知らないことを一気にみんなにバーンと投げる感じが、すごく好きなんです」と明かす。続けざまに「毎カット毎カット、監督が『OK』と言う声のボリュームを上げたい。滝田組に参加すると、みんな思うんじゃないかな。監督が想像していたものにカチッとハマって、大きい声を出させたいんだよね」と目を細め、「クライマックスの撮影、あの日は酒がうまかった」とかみ締めるように語った。

その言葉通り、クライマックスシーン本番、二宮が初っ端から得も言われぬ輝きを放った。滝田監督は一発OKをかけた後、しばし呆然とスタッフたちと顔を見合わせ、「この顔を見るためにつくっていた」と確信したという。「まさに、ニノにしかできない表情。『はい、頂きました! ごちそうさま!』という感じで、ワンテイクだけでした。映画は実際に撮影してみないとわからないもので、ニノの表情を見て『これだったんだ。いいもの見ちゃった』と見事にハマった。ものを作っていて、あの瞬間が一番嬉しい」。二宮も嬉々として「いいもの見ちゃった」と繰り返し、笑った。

なおも滝田監督は言葉を継ぐ。「自分の思う出来栄えになってほしいのと、想像と全然違う素晴らしいもので声も出せなくなりたい。両方あります。クライマックスは後者だった。『NGだと言うやつはいない』と、確信を持って一発OKをかけました」と表情をほころばせ、「ニノは常にシャープ。人に見せていないところをどれだけ用意しているか。あの表情は現場でいきなり出たわけではなく、日常からずーっと訓練している、積み重ねから出たもの。この先、もっとすごい顔が出てくるんでしょう」とさらなる期待を込めた。

現場で指示する滝田監督
現場で指示する滝田監督

対する二宮は、滝田監督作に満ちあふれるヒューマニズムは、ほかならぬ監督自身の人柄が源泉であると分析する。「皆さんビックリすると思います。滝田さん、こんなに明るい人なんだって。組全体も明るく、みんなに活気があるし、“作業”じゃないんですよ。みんながやりたいことを提案する現場って、そんなに多くはないんじゃないかな。その空気をつくっているのが滝田さんで、だからみんな、滝田さんの映画が好きなんだと、すごく伝わる現場でした」と話す。

二宮「滝田さんの現場は、三角形(のヒエラルキー)じゃないんだな。パッと横を見たら急にいるし、滝田さんが普通に座っていても、カメラマンの浜田(毅)さんが『レール敷きたいんだけど、どいて?』って、どかされちゃったりする(笑)。もちろん長年タッグを組んできたからこそですが、全部が本当に元気にまわっているんです」

滝田監督「明るいと言われてもね。ずっとこういう風にやってきたから。まあ、そういう意味で言うと、助監督時代からずっと、映画には泣かされてきましたから。あとは普段穢れているから、映画の現場では清らかでいたいよね(笑)」

ともあれ、映画製作に困難はつきものだ。滝田監督いわく簡単だった作品はひとつもなく、多くの場合、初期段階が最難関になるそうだ。「図面を引いて、何を撮るかを確信するまでが一番大変な作業。今作も困難だらけで、まずシナリオができなかった。脚本は『永遠の0』の林民夫さんでしたが、23、4稿書いてもらっています。1年半の間にこれは、かなりつらい。多分、俺の顔はもう見たくないと思う」と申し訳なさそうにつぶやきながらも、「まあ、何やったって大変なんだから、いちいち驚いていられないよ」と朗らかに笑うその姿に、百戦錬磨の貫禄を見た。

綾野剛との関係性も見どころ
綾野剛との関係性も見どころ

そして、二宮。腕を組み、眉間にシワを寄せながら「充が過去を回想する表情の撮影。唯一ピリついた」と切り出したが、「助監督さんがこういうシーンですよと、『おかあさーん』とセリフ(モノローグ)を言って下さるんですけど、滝田監督が『もう、やめろ~! ニノはできるから、やらなくていい!』って(笑)」と吹き出す。「人の話を聞く」受け身の芝居が多かったため「ドラマチックにやりたくなるんですよ。朝からずっと人の話を聞く芝居していると、どうしても『仕事した』という達成感がほしくなるというか(笑)」と語り、「でもドラマチックだと、違う感じなる。質感が難しく、監督にずっとハンドリングしてもらっていましたね」と思いを馳せた。

すべての謎が怒涛の勢いで収束し突入するクライマックスは、二宮の信念が発露し、滝田監督が受け止めることで紡がれた。充がカツサンドを「サクサク」と噛みしめ、涙ながらに幸福感を反芻するさまが映し出された瞬間、観客はそれまで目撃してきた数々の場面を走馬灯のように思い返すだろう。「さまざまな世代の人の心に、深く届く映画になっていると思います」(滝田監督)。お腹を空かせて劇場に足を運び、“至高の一皿”をご賞味あれ。

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