劇場公開日 2017年2月11日

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「家族で笑える幸せ」サバイバルファミリー 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0家族で笑える幸せ

2017年3月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

 小日向文世と深津絵里が夫婦役を演じるというだけで、ある種のアンバランスが想像される。アンバランスは静止エネルギーと同義であり、何かのきっかけでダイナミックに動きはじめる。両俳優とも、期待にそぐわぬ見事な演技だった。

 ファミリーはいかにも現代的な家族で、最初のうちは、当然ながらまったく感情移入できない。仕事最優先で家族を顧みない夫、我儘勝手な息子と娘に、性格は悪くないが能天気な妻。
 ストーリーは予告編や公式サイトにある通りのサバイバルだが、特殊な能力の持ち主が現れることも、思わぬ幸運が舞い込むこともなく、等身大の人間が体当たりで状況に挑む、ある意味で振り切った演出だ。ところどころに伏線や思わぬゲスト出演があって、楽しめる。

 電池や発電装置をふくむ、あらゆる電気が突然なくなる生活は、特に若い世代を直撃する。スマホが使えなければ友達でなくなるのは、つまり友達はスマホの中にいたということだ。
 サバイバルの中で家族の絆は強まるが、逆に家族以外に対しては微妙に排他的な心理状態になる。それでも礼儀を忘れないのは日本人らしいし、助け合える状況では進んで助け合う。まっとうな家族が極限状況に陥ってなおまっとうであり続ける、稀有なサバイバル生活を過ごす物語で、自分でもきっとそうするに違いないという共感があり、ストーリーの途中からは完全に家族に感情移入している。

 蒸気機関車がトンネルをくぐった後の車内のシーンがこの映画の白眉ではなかろうか。どんな状況でも家族で笑えるのはいいことだなと、しみじみ思わせる幸せなシーンだ。

耶馬英彦