「人間力を大切に」サバイバルファミリー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人間力を大切に
航空パニックをコミカルな群像劇に仕上げた「ハッピーフライト」の矢口史靖監督の事だから、もっと笑える内容かと思っていたら、意外!
勿論、コメディがベースのエンターテイメントではあるが、何度も何度も自分だったら?…と考えさせられ、思ってた以上に面白かった!
もし明日、世界から電気が消え、何もかも使えなくなったら…?
幾ら何でもそんな事が突然起きるなんて現実的に考えてあり得ないかもしれないが、その“もしも”の描写がコメディとは思えないほどリアル。
時計が止まって時間も分からない、エレベーターも止まってマンションを階段で上り下り、電車も止まって歩いて出勤、自動ドアも止まって中にも入れない、洗濯もトイレも風呂も洗い物もダメ、夜は真っ暗、今あちこちでどうなってるのか知る手段も無い。
日本人は震災時でもマナーを守って称賛され、海外のような暴徒が起きないのは誇りだが、あの苛立ちや困惑はあり得そう。
同じマンションの老女が生活を苦に亡くなっていた…というエピソードはほんの一瞬だが、妙に生々しくて胸締め付けられた。(仮設住まいの震災被害者が何人も生活を苦に自殺したというニュースを思い出した)
冒頭、田舎から送られてきた魚を捌けず、野菜に虫が付いてたから捨て、スマホにどっぷり依存の生活描写が皮肉たっぷり。
ホント、今の生活が何と恵まれている事か。
(かく言う自分も今まさに、スマホ片手に感想を書いてる訳だが…(^^;)
一週間経っても電気が戻らない。
飲食も底を尽きた。
唯一の望みは、自然に囲まれた鹿児島の妻の実家。
飛行機も飛んでおらず、いつ着くか分からない自転車旅…。
自分だったら何を持って、どういうルートで行くか、今から準備しなくては!…とかなりシミュレーションしてしまった(笑)
高速は徒歩や自転車で大渋滞、途中途中のSAやスーパーは品切れ。皆、考える事は同じ。
進んでも進んでも、先は長い。
ボロボロ、限界、家族内の不満爆発。
ああ、もう、ダメだ~!
…そんな時、人間本来の営みが物を言い、真価や底力が発揮される。
途中出会った田舎で一人暮らしの老人の下で重労働を手伝うが、その施しの有り難み。久し振りのご飯らしいご飯が涙が溢れるほど美味い。
次第に取り戻していく家族の絆。あんなに大事だったスマホやエクステや○○○なんて今となっちゃどうでもいい。
ある時、非常事態が。こうなるまで家族がバラバラになるとどんなに辛いか分からなかった。
電気がある生活の豊かさもだけど、家族が一緒に居るありふれた幸せがいかに大事か。
人間って確かに弱っちくて脆い。
すぐ諦め、心がポキッと折れる。
でも、追い込まれた時の火事場の馬鹿力、適応力は誰もが持っている。
その“人間力”、天晴れ!
何だかシリアス作のような堅苦しいレビューになってしまったが、ユーモアとハラハラとしみじみの感動バランス良く、エンタメとして非常に楽しめる。
電気が消えた理由も謎のままなのも良かった。
悪戦苦闘サバイバルと家族の絆再びを通して、今の恵まれた生活への痛烈なメッセージと一見思うが、そうではなかった。
ラスト、電気が戻り、以前の生活を取り戻すが、以前と全く同じではない。同じに見えても、間違いなく何かがいい方向に変わった。
エンディングのライトアップされた都会の街並みの美しい事。
今の恵まれた生活に感謝を。人間力を大切に。