幸せなひとりぼっち
劇場公開日:2016年12月17日
解説
孤独な老人が隣人一家との触れあいを通して再生していく姿を描いたスウェーデン発のヒューマンドラマ。世界的ベストセラーとなったフレドリック・バックマンの同名小説を映画化し、スウェーデンで大ヒットを記録した。愛する妻に先立たれ、悲しみに暮れる孤独な毎日を送っていた老人オーベ。そんなある日、隣の家にパルバネ一家が引っ越してくる。車のバック駐車や病院への送迎、娘たちの子守など、何かと問題を持ち込んでくるパルバネたちにうんざりするオーベだったが、次第に彼らに心を開くようになり、やがて妻との思い出を語りはじめる。「アフター・ウェディング」のロルフ・ラスゴードが主人公オーベを好演。スウェーデンのアカデミー賞と言われるゴールデンビートル賞で主演男優賞と観客賞をダブル受賞した。
2015年製作/116分/スウェーデン
原題:En man som heter Ove
配給:アンプラグド
スタッフ・キャスト
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2017年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
主人公の爺さんはゴリゴリの保守だ。同じ地域、同じ職場で黙々と働き、大きな変化を好まず、愛する妻を亡くした今では世間と折り合いをつけることも面倒で、早くあの世に行きたいと願っている。
そんな偏屈爺が、隣人となった国際結婚の家族(妻がペルシャ系)と交流することで他者と繋がる喜びに目覚めていく。定番のパターンではあるが、爺さんが改心するわけでも人生観を覆されるでもなく、ひたすらに自分であり続けるのが面白い。
その過程で気づきを与えられるのは実は観客の方だ。爺さんは保守的であっても差別主義者ではない。アメリカのトランプ支持者は保守的な庶民層だと言われているが、保守的な庶民だからといって世界に対して自分を閉ざしているわけではないのである。
逆に言うと、これほどの偏屈爺さんでさえ価値観や文化の異なる他者にオープンでいられるのだ。これは世界の希望であり、日本の現状を思うと羨ましくもある。
2016年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
頑固な老人が、ささいなことをきっかけに周囲と心を通わせ————このプロットだけ見ると、過去の映画で何度も再利用されてきた内容のように思える。だが、この北欧からの贈り物には、単なる表層的では終わらない深みがあった。自ら「あの世」に旅立とうとするたび、走馬灯のように記憶をよぎる過去のエピソード。無骨な父親が一瞬だけ見せた優しさ、運命の女性と出会った瞬間の、世界の見え方がガラリと変わるほどの喜び、その一方で変わりゆく友情、大きなものを失った悲しみ。どれもが胸を締め付ける。そして喜びと悲しみの分だけ、観客はこの頑固じいさんのことを知り、彼への愛おしさを泉のように沸き起こさせていく。かくも共感を誘う物語の歩調と絶妙なユーモアが心地よく、押し付けがましさが全くない。また主人公が、けっして親切のためでなく、溜息まじりで目の前の事象を修理するたびに、人と人、心と心が繋がっていく過程も面白い。ささやかだけれど、とても心に染み入る名作だ。
2016年12月10日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
原作もそれを基にした映画も世界中で愛される理由は、一重に、亡くなった最愛の妻の元に早く旅立ちたいのにその都度邪魔が入って旅立てない老人の、憎めないキャラクターに起因する。隣人の非常識な行いをいちいちチェックしては文句をつける傍らで、向かいに住むイラン人妻やゲイをカムアウトしたばかりに家を追い出された少年と交流してしまう寛容さが、主人公の独居老人、オーヴェにはあるからだ。辛い過去の思い出に引き摺られて度々自暴自棄になるオーヴェだが、寸前で思い止まらせるのは亡き妻が彼に残した、「今を楽しんで生きて!」という言葉が記憶の奥底に刷り込まれているせい。福祉大国、スウェーデンならではの実は国民に優しくない現実も覗かせつつ進む物語は、人生にはたくさんの悲しみをカバーして余りある出会いと感動があることを教えてくれる。悲観は時に滑稽なもの。そんな達観と随所に織り込まれたユーモアが、気持ちのいい涙を流させてくれる人生賛歌fromスウェーデンである。
2023年5月16日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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最近観た作品(「オットーという男」)が
実はリメイク作品だったと知りました。
スウェーデン映画は余り観た記憶が無いので
どういったものかと興味が涌いて鑑賞。
◇
最愛の奥さんを亡くしたオーベ。
この世に未練は無いと、ソーニャの元に行こうと
自殺を試みるのですが、上手く行きません。
首吊りに排気ガスに列車飛び込み、そして猟銃 …うーん
そんなオーベの家の隣に引っ越してきた家族。
夫婦と娘二人、4人家族のパルパネ一家。
旦那はどうにも頼りない。車の運転もヘタ。
奥さんは移民らしい。料理が上手。
小さい娘二人は可愛い盛り。
そしてソーニャのお腹には3人目がいます。
ひっそりと妻の後を追うつもりのオーベ。
そうと知ってか知らずか、
何かと隣の奥さんがオーベに声をかけてきます。
娘二人のお守りを頼まれたり
車の運転を教えてほしいと請われたり と
ゆっくりと自殺を図る暇の無いオーベ (・_・;
オーベの家の近くには、今は不仲となってしまったけれど
この団地に引っ越して来た頃からの友も住んでいる。
その家を手に入れようと、悪徳不動産の魔の手が伸びる。 …むむ。
パルパネ一家との交流を経て、不仲の原因は過去の自分にもあったと
そう気が付くオーベ。
#このままにしておけるものか と
旧友の立ち退きを阻止するべく、行動を開始するオーベ。
さあどうなる。 というお話。
実の父。奥さん。
今は居なくなってしまった大切な人たち。
彼らへの想いがどれだけ大事だったかを丁寧に描きながら
新しい隣人との
#新たに生まれる大切なもの
を描き出したとてもハートフルな作品でした。
「オットー」がきっかけでの鑑賞でしたが
こちらの作品も、とても良いですね。
観て良かった。うん。
◇
野暮とは思いつつ
「幸せな」と「オットー」の比較などを少々。
■「幸せな」では
オーベの少年期のエピソードが丁寧に描かれています。
特に「父」との関わり。
母を病気で亡くし、父との二人暮らしに。 そして、
事故により突然の一人暮らしへ。 激動の青年期。
そんな中での「ソーニャ」との出会い。それは
大事なものを失い続けたオーベに訪れた人生の分岐点。
大切なものが減り続けた中で、大事な人が増えたオーベの
喜びは、容易に想像ができます。
その最愛の妻を病気で失い、また訪れた喪失感と絶望。
「幸せな」のストーリーは、冒頭からオーベが妻を失った
事を明らかにしているのですが、過去のエピソードの丁寧な
振り返りによって、よりオーベに共感し易くなっています。
■「オットー」では
父との関わりは、余り詳しくは描かれず省略気味。 あらまぁ
一方、妻ソーニャとの過去のエピソードは「幸せな」とほぼ同じ
くらいの内容が描かれます。
ですが、この作品の始まりの時点では、
「ソーニャが故人であることが、はっきりとは描かれていない」 のです。
それが、小さいようで大きな違い の気がしました。
オットーの「過去から現在へ」 と至る内面の葛藤(成長?)の描写は
極力抑え気味にして、その分家を奪われそうな旧き友人を助けるという
エピソードに重点を置き、エンターテイメント的な演出で見せ場を作る
そんな演出をしているように感じられました。
■まとめ
ストーリーの骨子は変わらないのですが
制作した国の「お国柄」が出てるのかなぁ …と
そんな気もしました。
スウェーデン と アメリカ
サーブとボルボは シボレーとフォードに
トルコ移民は メキシコ移民に
※トルコ移民というと、パルパネさんは
クルド人の設定なのかなぁ…
(原作が気になってきました)
最後は観る側の好みの問題なのでしょうが
この作品で描かれる人物の心理描写の細やかさは
とても好きです。
◇最後に
お葬式。
"私の事を認めてくれた人だけを呼んで欲しい”
そう遺言に書き残していた主人公。
教会の礼拝堂。
入口付近まで弔問客で一杯になった様子が映る。
こんなにも沢山の人が惜しんでくれている。
”貴方の人生、捨てたものじゃないわ”
そんなソーニャの声が聞こえて来るような気がしました。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。