奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール : インタビュー
妻夫木聡×水原希子
サブカルネタとポップなエンタメ性が見事に融合した極上ラブコメ!
渋谷直角氏のマンガを「モテキ」の大根仁監督が実写映画化した「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」が、9月16日公開される。編集者の主人公が、ファッションプレスの美女に一目ぼれし、翻弄されてしまう様をコミカルに描いたちょっと大人のボーイ・ミーツ・ガール映画だ。主人公が崇拝する奥田民生の楽曲と、ファッション、SNSなど時代の空気感を個性的な映像で作品に取り込む大根監督の鮮やかな手腕により、サブカルネタとポップなエンタメ性が見事に融合した極上のラブコメが誕生した。自ら出演を熱望したというコーロキ役の妻夫木聡と、今作で女優としての新境地を開いたあかり役の水原希子に話を聞いた。(取材・文/編集部 写真/間庭裕基)
――ヒロインのあかりがとにかく可愛らしく、これまでとは違った女優としての水原さんの魅力が存分に楽しめる作品ですね。
水原希子(以下、水)「本当ですか!? ワーイ(笑)。これまで、クールだったり、手の届かないような女の子を演じることが多かったので、あかりみたいにリアルにいそうな女の子を演じて、キャピキャピできて楽しかったです」
妻夫木聡(以下、妻)「でも、希子ちゃん自身はキャピキャピとはまた違うんだよね。あかりみたいな媚び感はないし。ポジティブなオーラや、ハッピー感は一緒なんだけどね」
――オファーから原作、脚本を読んでの感想は?
妻「最初、直角さんから送っていただいた原作を読みました。僕も民生さんが好きなので、まずはタイトルにひかれたんですが、話のテンポがよくてすぐに映像のイメージが浮かんで。だからこそ自分がやってみたいって思いましたし、『モテキ』の大根さんが撮ったら、絶対に面白くなるっていう直感がありました」
水「ずっと大根さんのファンだったので、彼が撮るんだったら、私は何でもやりたいってずっと思っていて。私自分もファッション業界にいたから、理解できるキャラクターだったし、相手が妻夫木さんということで、楽しみでしかなかったですね。お話いただいてから、大根さんとはツイッターのDMでやりとりしたりして。そういう距離感で監督と関わることはなかったので、緊張感よりも、何か楽しいことができるんじゃないかっていうドキドキ感のほうが大きかった」
――おふたりとも大根監督の作品のファンだったそうですね。その魅力は?
妻「吸引力がありますよね。テンポがよくて、心の隙間に入ってきてくれる監督。クレバーな方なので、何事も計算ずくかと思っていたんですけど、現場で『ちょっと踊ってみてよ』とか、無茶ぶりみたいな感じではあるんですけど、急にいろんなアイディアが出てくる。奇想天外なんだけれど、編集がめちゃくちゃうまいので、上がってみると、バチっとはまるんですよね。初号試写を見て久しぶりにここまでどストレートなラブコメをやれてうれしくて、思わず、大根さんの背中を叩いて『面白かったじゃないですか』って言っちゃったくらいです」
水「すごくおしゃれで、今若者の間で何が巻き起こっているかとか、リアルなことをオタクのように、しっかりリサーチされてるところがすごい。お会いする前から女の子が大好きなんだろうな、っていうイメージが一番強かったんですけど(笑)。それ以外にも、リアルなことをたくさん知ってる人が共感できるような物語を作るのがとても上手い。あとは、彼にしか出来ないものを持っているけど、自分でえらい監督だと思っていないっていうか。“身近だけど天才”みたいな感じ」
――「モテキ」の長澤まさみさんをはじめ、大根監督は女優をとても美しく撮られますよね。今作を見ていかがでしたか?
水「私のことを撮るときに、監督自身がカメラを持つことがあったんですが、あとから聞いた話でそれは『Eカメ(エロカメ)』って名づけられてるらしいです(笑)。セクシャルなシーンもあるし、撮影前に知人から『大根さんはエッチだから気をつけてね』って言われて覚悟はしてたんですけど(笑)、女性に対してリスペクトがある方なので、本当に自分の好きなものをキレイに撮りたいっていう、子供みたいな純粋なパッションが映像に表れていて。体がたくさん映るのでちょっと緊張してましたが、実際に見たらどのアングルもすごく美しく撮ってくださってて、ありがたいなあって思いました」
――話題のキスシーンはおふたりの俳優人生で最高のカット数だそうですね。
妻「最初、台本には無かったんです。差込みで大根さんがキスにしたいって提案して、出来上がるまでは心配でしたけど、いろんなシチュエーションで、それぞれにちょっとしたテーマ性があっておもしろかったですね。基本的にあかりに翻弄される話なので、実はコーロキの幸せな瞬間って少ないんです。大根さんはそれを表現できるのがキスだと思ったんじゃないですかね。あのキスでコーロキの幸せな瞬間は終わったので……(笑)。そのインパクトが出ていると思います」
水「リアルですよね。だって付き合いたてのふたりって、お互い狂ったようになっちゃうじゃないですか。だから私もそのつもりで臨んだし、そういうところを躊躇無く、キスにしちゃうっていうのも、大根さんらしい。全部デートのシーンなので、楽しんで演じられました」
――あかりは、無邪気な笑顔と言動で多くの男性を翻弄しますが、実は複雑な性格の女性ですよね。
水「やってることが大胆で、魔性なんだけど、彼女自身も普通に恋愛が出来ない何かを抱えていると思う。もしかしたら、過去に何か問題があったり、昔付き合ってた人に、自分が狂わされて傷ついていたりとか……。きっと精神的になにか抱えているものがあるんじゃないかって考えました。本当だったら、登場人物の中で一番まっすぐに愛してくれてるのはコーロキ君なんだけど、そこに素直にいけない。きっと本当の自分を見せても愛してもらえないって思ってるのかも。相手に良く思われたくて、好きな人の前で自分じゃない自分を演じちゃう部分って誰にもあると思うし、女性は共感できるところがあるんじゃないかな。あかりはその極端な例だから、ビッチだとは思えない。みんな彼女を好きになっちゃうし、誰も嫌いにはならない。ある意味ピュアな子なんだとも思う。そして同時に寂しい子なのかもしれないですね」
――コーロキの心情を代弁するような奥田民生さんの楽曲が効果的に使われています。妻夫木さんにとっての奥田さん、そして思い入れのある楽曲は?
妻「民生さんは僕にとって会える神様ですね。『まあ、いいんだよ』っていう感じにさせてくれて、誰も緊張させない懐の広さがあるんです。もともと僕は『The STANDARD』って言う曲が好きだったんですけど、この映画をやってから『CUSTOM』が好きになりましたね。歌詞がなんか泣けてくるんです。民生さんが映画を見てくださって『おもしろかった』って言ってくださってとてもうれしかったですね。でも、声高に言いたいのは、この映画は奥田民生みたいになりたいミュージシャンの卵の話ではありません(笑)」
――共演キャストのみなさんも、一度見たら忘れられないようなひと癖あるキャラクターを演じていましたね。印象深かったシーンを教えてください。
妻「大根さんがリリー(・フランキー)さんに、志村けんさんの物まねをDJっぽくしてくださいとリクエストしたときには、妻夫木聡として、笑いのつぼに入らないように気をつけてました(笑)。あと、(猫を飼うライター役の)安藤サクラさんとのシーンでは、その後の猫の撮影を考えて、笑いたくても笑えない、絶対NGは出せないっていうプレッシャーがありましたね」
水「最初台本にはなかったんですが、私は松尾(スズキ)さんと、クランクイン3日目で耳をなめるっていうシーンがあって(笑)」
妻「なぜか、リリーさんが『そんなの聞いてないよ!』って怒ってたよね(笑)。ここ最近の日本映画界で俳優さんの耳なめた女優さんは希子ちゃんくらいしかいないんじゃないの。大根さんから、猫みたいにぺろぺろなめてって指示されてたよね」
水「あれは、本当に恥ずかしかったですね……。普通に人として緊張するじゃないですか。私、猫の鳴きまねもしましたからね(笑)。あの時だけは、ちょっとこの先、どこまで求められるんだろうって心配でした」
――コーロキはあかりに振り回されるものの、劇中のおふたりの息はぴったりでした。今度共演することがあったらどんな役で?
妻「希子ちゃんを狂わせることは一生できなさそうなんで、逆の立場になることはないだろうし……。あ、兄妹かな?」
水「私も同じこと考えてた! 妻夫木さんはお兄ちゃんっていう感じがあるから、妹になれたら楽しいだろうな」
妻「でも、妹が狂わせガールだったらやだな……(笑)。(寸劇始まる)『おまえ、今日どこ行ってたんだよ!』」
水「『お兄ちゃんには関係ないじゃん!』ドア、バタン!! みたいにね(笑)」