花戦さ : インタビュー
人の生きざまこそが花!野村萬斎が「花戦さ」で到達した“人生の美”
織田信長、豊臣秀吉といった天下人と関わりを持ち、茶人・千利休とも親交があった“いけばなの名手”花僧・池坊専好を狂言師・野村萬斎が演じる「花戦さ」が、6月3日から全国公開される。「地下鉄(メトロ)に乗って」「起終点駅 ターミナル」の篠原哲雄監督とNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の脚本家・森下佳子が組み、歌舞伎俳優・市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、佐藤浩市、高橋克実、山内圭哉、和田正人、森川葵、吉田栄作、竹下景子といったオールスターキャストで贈る本作。花を愛し、人を愛し、混迷の世を駆け抜けた専好をしなやかに演じきった萬斎が、作品に込めた思いを語った。(取材・文/編集部 写真/堀弥生)
実在の花僧・池坊専好(萬斎)が、親友の茶人・千利休(佐藤)を自害に追いやった豊臣秀吉(猿之助)に華道で戦いを挑むさまを痛快に描くエンターテインメント時代劇。萬斎は、人の名前がまったく覚えられず、皆からあきれられる人物ながら、突出したいけばなの才能を持ち、民衆に慕われ、利休をはじめとする文化人たちと共にお互いを高めあった希代の芸術家を時にコミカルに、時に渋さをきかせて表現している。
いけばなには真(しん。主材)と請(うけ。副材)という概念があるが、萬斎は「人は花であり、花は人を映す。(劇中では)人の個性が花の個性とダブルミーニングになっているんです。専好さんが真で、これだけの豪華キャストが請となる。芯のあるものがあって、色々なカーブを持った草があり、花があり、彩りを見せる。真を見て、また全体を見て、という行き来があります」と個性豊かな登場人物たちが咲き乱れる本作の魅力を花にたとえる。
続けて、本作には“癒し効果”があると語り「花を見たり、茶釜でお湯がたぎる音に癒されるのは、日常とはちょっと違う時間を獲得できる瞬間だと思います。映画館の大きな画面で、花に癒されてほしい。そんな花やお茶の効果を身近に感じて欲しいです」と呼びかける。
映画には“花”の専好のほかにも“茶”の利休、“絵”のれん(森川)といった表現者たちが登場。美を追求した人々の戦いの物語ともいえるが「彼らはひとつひとつの作品に、ある種の魂を込めて作っていますよね。利休は利休なりにお茶に信念とこだわりを込める。まさしくそれが生きざまになる。生きざまというのがまさしく“花だ”ということであると思います」と評する。
個性も、生きざまも、人のすべてが“花”となる。専好を演じた萬斎ならではの視点といえるが「専好さんはその花を実際にいけるし、人の心にも花をいける、または心を開かせるというか。“花がほころぶ”という言い方がありますが、まさしく相手の心がほどけてほころんで、開かせるというのがこの役のすごく魅力的なところだったな、とも思いますね」と振り返る。本作の見せ場である、専好が秀吉の元に乗り込むシーンについても言及し「秀吉に対しても負かそうとするのではなくて、心をほどいてほころばせるために花をいける。『北風と太陽』みたいな話で、北風のようにビュービュー吹いて無理矢理こじ開けるのではなくて、太陽が自らコートを脱がせるように、自然と心が花開く。(本作のテーマは)そういったことじゃないかと思います」と語る。
萬斎はさらに、自身と役どころの共通点について語る。「専好さんは、(池坊を束ねる役割を負いながら)組織には向いていない人ですね。けれど、いけばなの『真』をつけて『請』をするという方法論には決まりがあるわけです。専好さんはそこからはみ出す個性を持っている。何をやってもよいというよりは、ある程度規範があった中で遊ぶとか、意外性というものを出すのが個性。そういう意味で、専好さんという人は規範の中での個性的な存在。個性と規範の間で戦っている僕の中にも、同じような葛藤はあります。だからこそさまざまな場へのあこがれはありますね」と吐露した。