劇場公開日 2017年2月11日

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「演劇みたいな映画だった。うるさくした小津映画みたいでもあった。」たかが世界の終わり(2016) talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5演劇みたいな映画だった。うるさくした小津映画みたいでもあった。

2025年4月25日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

と思ったら、舞台劇が原作だった。ある日の午後、12年ぶりに家族に会いに戻ってきた次男ルイ、劇作家。兄のアントワーヌは弟に劣等感があるのかすかしたインテリ野郎と思っていて、自分の職業も弟からしたら粗野に見えるんだろうと勝手に思い込んでいる節がある。でも弟のかつての友達がガンで亡くなったことをルイに伝えた箇所で、兄は弟が何故12年ぶりに戻ってきたか本当はわかっていたのかも知れないと感じた。自分で自分に頭くる無器用な兄は右手の握り拳に赤い痣が沢山ある。妹のシュザンヌ(レア・セドゥ可愛い)は小さかったからルイのことは覚えていないが慕っている。少し大雑把で一方的に喋るのは母親似、激情して攻撃的に話すのは長兄似だろう。ママの化粧はなんだか濃すぎ、同じ話(ルイさえ知ってる)を繰り返して家族からウンザリされてハイテンション気味。でも子ども達の個性をよくわかっている。

殆ど話さなかったルイが唯一話せた相手は、初対面である兄嫁のカトリーヌ。アントワーヌに会話の邪魔をされながらもゆっくり話し続けるルイとカトリーヌ。このシーンにはたっぷりと時間がとられていて、二人の横顔とうなじが画面いっぱいに映し出される。どうってことない言葉のやりとりと沈黙のシーンは長く、穏やかで美しい映画の一場面だった。

グザビエは色彩、光、音楽、美術、カメラの扱いが上手い。キャスティングもいい!ルイはギャスパーだからこそだし(スキーで亡くなって本当に悲しかった)、カトリーヌはマリオン・コティヤール以外には考えられない。家族なのに家族とまともに言葉を交わせない立場に陥ったルイと話せて、最後は目と身振りで挨拶できたのは、血縁関係のないカトリーヌだけだった。兄も母親も誰よりルイを愛おしく思っているのにみんなの前で素直にルイの言葉に耳を傾ける勇気がない。ルイは孤独に押しやられ置いてきぼり、彼自身も家族に心からの共感を感じることはできなかった。

時計は容赦なく針を進める。ちょうど午後1時に到着したルイは、デザートが終わった後に家族に言うべきことを言ってその日のうちに帰る、と電話の向こうにいるパートナーに伝える。その午後4時に針が近づいていく。いつの間にか鳩時計の中に入り込んで床の上で死んだ小鳥はルイの身替わりだろうか?

ルイが家族と意志疎通ができなかったのは彼の12年もの不在(音信不通ではなかったのに!)が原因なんだろうか?ルイだけが家族の中で唯一知的な職業に就いているからなのか?それとも彼がゲイだからか?私は意志疎通ができなくなってしまっている家族は沢山いると思う、それぞれが誰かに劣等感や不信や苦手意識を持ったりするから。それはわかる。でも私は家族が連絡してくれれば長年不在であろうが、どんな仕事をしていようが、ゲイやレズであろうがいつでも受け入れて時間をかけて話を聞きたい。それから初めて自分も話す、自分ばかりが話しそうな恐れがあるから気をつける。

おまけ
原作者のジャン=リュック・ラグルスはゲイで、エイズで38才で亡くなったことを知った。映画の中で長男が家父長的な立場にならざるを得ないのを不満に思っている箇所があって、なんか古いなあ、いつの話なんだろう?と思い頭が少し混乱した。ルイのかつてのボーイフレンドが亡くなったと兄がルイに伝えた時、あえて「ガンで」と死因を言っていたが、それはエイズなのではと思った。ラグルスが生きていた時代、エイズは不治の病だった。だからこの劇(映画)でも兄のアントワーヌは弟のルイも遅かれ早かれ死ぬと感じたのではないか。

talisman
きりんさんのコメント
2025年4月26日

〉グザビエ初心者

talismanさん
Bonjour✨

フランス人グザビエ・ドランのファーストネーム「グザビエ・Xsavier」って、
響きがエグいし、変わった名前だよなー、どういう《語源》なんだろー?ってスペルを日がなじっと見ていたら・・
「ザビエル」の事だったんですよ! まったく同じスペル。

「Xavier」スペイン語(カスティーリア語)のザビエルさん。フランシスコ・ザビエルと同名。
(いまのスペイン語ではJavierハビエルと表記発音されるそうですが=ハビエル・バルデムですね)。

ちなみにうちの会社に「ザビエル」と言われている男がおりましてね、じつは彼は頭頂部が・・

どうでもよい話で 失礼しました😆

きりん
きりんさんのコメント
2025年4月26日

「わたしはロランス」もオススメです。
色彩のシャワー!
色どりある人間たちのスコール!

きりん
kenさんのコメント
2025年4月26日

コメントありがとうございました。好きな映画を共有出来て嬉しいです。

ken
ゆーきちさんのコメント
2025年4月26日

この作品が理解できて羨ましいです。Tom at the Firm のドランが美しくて、彼の作品をちょいちょい観ましたが、家で観たから気が散ったかもです。

作品はやっぱり劇場じゃないと…。勝手に倍速で観るものじゃないですねw

ゆーきち
NOBUさんのコメント
2025年4月25日

今晩は。ご無沙汰です。
 グザヴィエ・ドラン監督作品は、私、結構好きでして。音楽の使い方が巧いと思っている事と、センシティブな作風が好きですね。
 今日からGW突入で、ちょっと嬉しいNOBUでした。では。

NOBU
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