たかが世界の終わり : 映画評論・批評

たかが世界の終わり

劇場公開日 2017年2月11日
2017年2月7日更新 2017年2月11日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー

この地球という「家」とともに、われわれはどこに行こうとしているのか?

映画の冒頭、暗闇の中で走行音らしきものがじわじわと聞こえてくる。それが大きくなるとともに画面も明るさを増し、ノイズの中から穏やかなピアノの音が聞こえてくる。そしてようやくそこが飛行機内だと分かる。それまでどれくらいの時間が経っただろうか。30秒くらい? あるいは1分? そのほんの少しの間が、果てしなく長く感じる。その不安と期待。私はどこにいるのだろう、どこに向かっているのだろう。そんな揺れる思いが、映画の始まりを決定づける。ああ、こんな映画の始まりの感覚を味わわせてくれる映画は1年に何本あるだろう。主人公の旅に、私たちも確実に付き合うのだ。その緊張感に、身体が静かに震える。いや、飛行機の振動に体が反応しているのか?

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主人公は家に戻るところである。12年ぶりに戻るのだと、ナレーションが語る。もうすぐ死ぬのだという。お別れの帰郷である。だが彼を待つ家族はそんな感傷をあっという間に吹き飛ばす。いったいどんな暮らしを彼らはしているのだろう。普通では考えられない言い争いの数々。むちゃくちゃである。しかし彼らはそうやってもう何年も共に暮らして来たのだ。争いだらけ。どうして彼らはそこに一緒に暮らすのか、主人公の兄夫婦もどうして離婚しないのか、映画を最後まで見ても誰も説明できないだろう。そこに家があるからだとしか答えることはできない。

しかし画面に映るのは、主人公と家族の顔ばかりである。いやもちろん顔以外のショットがないわけではないのだが、罵り合う彼らの言葉とはこの顔なのだと言わんばかり。そしてそれを静かに聴き続ける主人公の微笑み。家という枠の中に顔が溢れている。それをみる映画館という枠の中にも顔が溢れている。さらに枠を広げると地球という枠の中にも顔が溢れている。そこからは誰も出ていくことができない。死ぬことでしか。いや死んでも出て行けないかもしれない。この地球という「家」とともに、われわれはどこに行こうとしているのか? 冒頭の飛行機シーンの期待と不安と緊張が、映画を観終わった後、再び静かに身体を震わせた。

樋口泰人

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