「あわや大惨事をどう捉えるか。」ハドソン川の奇跡 movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
あわや大惨事をどう捉えるか。
イーストウッド監督の作品が大好きだ。
本作も、どの観点で見るかで感想が変わる題材がモチーフ。
NYで離陸後すぐにバードストライクに直面し、NY上空からの落下を短い時間の中で判断してハドソン川に着水し、155名全員の命が助かったサレンバーガー機長の判断を、事故調査委員会はミスや過失がなかったか追求していく。
それと共に、42年間飛んできた経験に、自惚れがあったのではないか、何かが間違っていたのかもしれない、と自問自答していくサレンバーガー機長。
無事着水し全員の無事を確認できたから良いようなものの、そもそも155名の命を危険に晒してしまったのも確かであるし、川に着水という大きなリスクを取ったのも確か。自身の中では最善を尽くしたが、もしかしたら乗客誰かが命を落としていたかも、もしかしたらNYの街中に飛行機が暴走墜落し多くの命を奪っていたかも、あらゆる紙一重だった危険性にうなされ、追い詰められていく。
周りやマスコミ、会う人皆が奇跡だと称えてくれているだけに、機長本人の感想とは乖離が大きく、賞賛に値する行動だったのか、困惑混乱し、また囲んで詰め寄るマスコミに家族も頭を悩ませる。
培ってきた経験や感覚を、208秒の中での判断で発揮したことが、人為的な奇跡なのか、自惚れによる人為的なミスになるのか、難しい判断だが、最後には引き揚げられた壊れたエンジンがサレンバーガー機長の証言を証明し、データやコンピュータが実際の現実とはかけ離れたり想像であると知らしめてくれた。
ただし、演者がトムハンクスな時点で、もう機長そのものが、何をしていてもベストを尽くしているように見えてしまうのがデメリット。駆け出しの副業の会社のサイトが実際より大きく見せているという会話があっても、胡散臭い機長なのかな、という印象には全然ならなかった。もっと善悪どちらにも見えるようなキャストにすれば、もっと見ている側はどちらを信じるべきかを客観的に見られたと思う。飛行機事故調査が題材の他の作品、フライトの方が、個人的には考えさせられた。
でも、作中、「ここ何年かの中でNYに良いニュースがもたらされた、特に飛行機関連では」という台詞があり、その感覚がNY市民のこの着水事故の見方にも、サレンバーガー本人にも大きく影響しているのを感じる。だからこそ事故が題材でありながら、全体を安心して見られるようにという、イーストウッド監督の配慮とトムハンクス主演の効果なのかもしれない。
かつ、サレンバーガー機長が、あわや街に突っ込んでいたらと最悪の事態の想像に襲われる描写は、死者が出なかった結末でこそ奇跡と称えられているが、再びNY市民が9.11のトラウマを思い起こさせられ、多数の犠牲者と深い悲しみに襲われていた可能性を示唆する。
機長が責任感のある人物で、確認も怠っていないこと、副操縦士がハンドブックと照らし合わせながら臨機応変に設備スイッチを操作し機長と連携していること、CA達が最善を乗客に尽くし、注意を怠っていないこと、クルー全員が落ち着いていることがしっかりと描かれていて、実際の方々の名誉を傷つけていないところは良かった。
ただし実際は、操縦官はありえない量の機器チェックリストをこなすようで、イーストウッド本人もご高齢になってきているし、老人でもわかりやすいような内容に落とし込んだと感じた。
余計な発言をせず思慮深いが必要な発言だけし、管制塔とやりとりをしながらも情報を適宜取捨選択し不時着に集中する機長と、操縦交換後はサポートに徹して、目で見て経験したことをもとに機長は正しかったと寄り添い、たまにポロッと面白く場を和ませる副操縦士。名コンビだ。副操縦士役の俳優さんはエリンブロコビッチでシングルマザーのジュリアロバーツをサポートする相手役だった。とても良い配役だと感じた。