「アメリカ人の映画」ハドソン川の奇跡 Toshiさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカ人の映画
イーストウッドは現代アメリカの代表的映画作家であることは言うを待たない。イーストウッドの映画を観ればアメリカが分かる。
本作はストレートにヒーローを描いている。いつものイーストウッド映画のひねりはない。こういったイーストウッド作品は「硫黄島からの手紙」と「インビクタス 負けざる者たち」くらいしかない。しかしこの2作はアメリカ人の物語ではないのでアメリカ人のストレートなヒーローを描いたのは初めてだ。イーストウッドの描くアメリカはいつも屈性しているから。
だからと云ってイーストウッドの演出の腕の冴えに曇りがある訳ではない。いつものように簡潔で無駄がない。トム・ハンクスはイーストウッドの作品世界の人ではないと思うが、本作ならば納得できる。ハンクスはジェームズ・スチュアート、ヘンリー・フォンダといった誠実なるアメリカンヒーローの系譜に属する人でイーストウッドが演じた屈性したヒーローとは全く異なる。
誰でも知っている事件、結末を知っている事件をどう描くのかが本作の眼目だ。主人公のサリーは150人の人命を救いながら窮地に立たされる。こんな裏話があったのかとは思うが、イーストウッドのいつもの映画のような重い話ではない。その意味で物足りない。イーストウッドの今の気分はアメリカ礼賛なのかな。
夜のニューヨークをジョギングするハンクスの横に巨大な「グラントリノ」の看板が。ハンクスとイーストウッドの共演!これは楽しい。アーロン・エッカートがホテルのベッドに座ってスニッカーズをかじりながら5ドルもするとつぶやくシーンが良い。イーストウッドの映画は実はこういった何でもないシーンの呼吸が堪らなく良いのだ。
イーストウッドの映画としては軽い作品だが流石に十分楽しめる。「アメリカンスナイパー」と対で観るとアメリカンヒーローのネガとポジということになるだろう。