海よりもまだ深くのレビュー・感想・評価
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台風、大好きなの。なんか気持ちが清々する
映画「海よりもまだ深く」(是枝裕和監督)から。
見ず知らずの若者と中高年の会話って、お互いの立場を考えずに、
言いたいことを言うから、面白いことが多い。
幾つになっても定職を持たず、ダラダラ生活を繰り返し、
競馬などのギャンブルに打ち込む中年に向かって、若者が叫ぶ。
「あんたみたいな大人にだけはなりたくないです」
それに対して、中年も負けてはいない。
「言っとくけどな、そんな簡単に、なりたい大人になれると思ったら、
大間違いだぞ」と言い返す。
これは、経験から発せられた言葉として、ニヤッとさせられた。
また「男」に対する女性の視点が妙に引っかかって、メモをした。
「男ってのはさ、なくして初めて愛に気付くんだよ」
「男の人は、すぐ『賞味期限』気にするから」
「なんで男は『今』を愛せないのかね」など・・。
一番メモしたのは、樹木希林さん演じる主人公の母親の台詞。
「友達をつくんなさい」
「そんなもの作ったって、お葬式にでる数が増えるだけですよ」
「こんにゃくは、ゆっくり冷まして、一晩寝かせた方が、
味がしみるのよ、人と同じで」
「便利になったなぁ」「歳をとって体が不便になった分ね」
「台風、大好きなの。なんか気持ちが清々する」
「幸せってのはね、何かを諦めないと手にできないものなのよ」など
さすが、人生を長く生きてきただけあるな、と感じた。
こんな台詞が気になるなんて、私もそろそろ仲間入りだなぁ。
日常のあまりの自然さにニヤニヤする
やっぱり
なにもないのが
さすがです。
んー深いね
「あれ」、「これ」が映画の核心
負けるもんかー
初見の感想です。
感受性が強いもので、製作委員会のかたがたに、「君たちこの映画に共感するでしょ、でも人生捨てたものじゃないから。ままならないこともあるけど、幸せ見つけて今を大事に、前を向いて歩こう、ねっねっ」と言われたような気がして、
余計なお世話じゃバカやろう!あたしゃビックになるぜ!ったくよう!
と力が湧いてきました。
いや。ほんとに、実は好きじゃないです。
なんか余計な手垢がつきすぎてというか、是枝監督の「市井の人演出」が心なしかその路線でクドくなってきたような気がしました。
抑圧された場面が続き、台風一過ですっきりするという構成は爽やかなんだけど、これをメジャーでやる意義は…とか考えると、お偉いさんにうまく使われたのではという邪推が生まれ、正直純粋に楽しめませんでした。
女優樹木希林は相変わらず持っていきますが。小林聡美も。
実家に帰ったような懐かしさ
覚えてるよ、忘れないよ。
派手な映像や二転三転するシナリオで惹き付ける映画
というのも当然好きなのだけど、映像も物語もシンプル
なのにスクリーンに釘付けにされる映画ってのが
世の中にはある訳で、それって大予算組んで制作
された映画よりも物凄い事かも知れないと時折思う訳で。
本作もそんな映画。
巨大宇宙船がアメリカ東海岸全域を破壊している間、
こちらはカチカチに凍ったカルピスシャーベットを
スプーンで砕く事に苦心してるてな具合のスケール感。
昨年の同監督作『海街diary』もハデな映画とは
到底言い難いが、本作はさらに小規模だ。
にもかかわらず、上映中こちらの目は釘付けにされてしまう。
それは何故かと考えたら、この映画に登場する人々に
シンパシーを抱かずにはいられないからだと思う。
彼等の行き先が気になってしようがないからだと思う。
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「どうしてこうなっちゃったんだろう?」
色んな人物がそう口にした。
大人になった自分は、もっと立派な人間に、
もっと良い人間になってると思ったのに。
大きな夢を抱く事は誰でも出来るけど、
それを実現できるのはほんの一握り。
大成する人は才能だけでなく、日々の努力を
惜しまぬ精神と運とを兼ね備えた人だったりする。
主人公リョウタのように多少の才能があってもうまく
いかないし、大抵の人はそんな才能すら与えられない。
モーツァルトになれずとも毎日努力さえすれば
サリエリくらいにまでにはなれるかもだが、
『1日1日を大切に』だなんて啓蒙じみた言葉を
何百何千回と聞いてきても、リョウタと同様、
やっぱり流されるままに生きてる日常。
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だがそのことをそんなに深刻に考えなくても、
これこうして僕らは生きている。むしろリョウタの
母のように、下手に執着し過ぎないから生きられる。
「あたしは海よりも深く人を愛したことなんか
ないけどさ、それでも楽しく生きていけるのよ」
そう語った彼女の言葉は真を突いていると思う。
“愛してる”だなんて、そんな大袈裟に言うものでも
思うものでもないのかも知れないし、始終そんな
重い心を抱えていたら、自分が生きてゆけなくなる。
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だけど、
あの母でさえも“楽しく生きて”見えない時があった。
どうしてこんなことになっちゃったのかね?と、
息子の嫁に声を震わせながら語ったあの瞬間だ。
ふだん忘れていても、“愛してる”という気持ちは、
ちょうど塗り重ねられた油絵の具のように、
時々ふっとその顔を覗かせる。
息子の離婚に心を痛める母、
息子の本をほうぼうに自慢していた亡き父、
本の話の時だけほんの僅かに表情の和らぐ妻、
そして、現在進行形で息子を愛するリョウタ。
公園の大ダコ。あの大ダコはあの夜、海の底にいたのだろう。
深さを測れる方法は無いけど、リョウタは息子を深く愛してる。
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けど、ごく当たり前の話、人間はいつか消える。
どれだけ大事に想っていた、大事に想われていたと、
後から気付こうが気付くまいが、人は消える。
もうすぐ私は死ぬだろう。
そんな言葉を、いつも冗談ばかり言っている
親から聞くと、何だかドキッとしてしまう。
それで笑って誤魔化す。バカなこと言うなよと。
当たり前に思えるものが信じられないほどあっさりと
消えてしまう事を、頭の中では誰もが理解している。
だが、それを本気で考える事は無意識に避けてしまう。
だって、それってものすごく怖い事だから。
それでも時にはその事実を痛感させられる時があるのだ。
当たり前のように思っていたものが、自分の前から
消えかけてしまっていることに気付く瞬間があるのだ。
終盤、階上から手を振る母の姿に、目が潤むのは何故だろう。
並んで去っていく妻と子の姿を見つめ続けるのは何故だろう。
この瞬間を目に焼き付けねばと強く願うのは何故だろう。
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日々の生活に流されながらも、
「これは忘れてはいけない瞬間だ」と気付く時がある。
それなら、メモでも何でもいい。心に留めておかなくては。
覚えてるよ、忘れないよ。
優しいエンドロールの歌声に、
僕の覚えている事は、忘れたくない事は、
一体何だろうかと考える。
<2016.05.21鑑賞>
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