海よりもまだ深くのレビュー・感想・評価
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テレサ・テンの名曲が起点にも
公開順序でいえば前作「海街diary」の後になったが撮影は海街を撮っている間に撮った是枝監督が原点に戻ると位置づけた映画である。 実際に監督が9歳から28歳まで住んでいたという団地で撮影。外観からも本作で描かれる生活感からもわかるように決して恵まれた生活とは言えないものの、自身の生活から得た小さな出来事を細部にわたり綴っている。 作家で文学賞を受賞した良多(阿部寛)は過去の栄光に縋り、なんとかなると言い訳しながら探偵事務所で働きながら生きているダメ男。愛想を尽かして別れた妻と息子は新たな人生をスタートさせようとするが、良多は探偵の名目で妻を張り込みをすることに。未練たらたらな良多は元の生活を取り戻すために行動に出るが・・・。 今回の主役、良多は始めから終わりまでいいところが見えずダメ男を極めている。だが考ていることは男ならではの単純さが露出しすぎていてどこか共感できる部分もあるのが面白い。そして、別れた妻には未練たらたら、養育費を滞納しながら息子には会うという浅はかな考えを元に動く彼をいつまでも大人としての男ではなく息子として暖かく見守るのが団地に住む母、淑子(樹木希林)である。 「みんながなりなかった大人になれるわけじゃない」というテーマが根幹にある中で、まさにこのテーマを背負って生きているのが良多であり、この呪縛から解放するかのように名言を言い放つ淑子は今回の隠れた主役かもしれない。作品全体のユーモラスも含め影響をもたらす中心にいるのは彼女である。 「歩いても歩いても」の姉妹作と位置付けられている本作は出演者の立ち位置が似ている部分もあるが、映画作りの工程にも準じている。その一つが挿入歌にあり、脚本を書きそこに音楽をあてるという基本なやり方とは逆をいくという斬新な方法だ。今回の挿入歌は中盤付近でラジオから流れるテレサ・テンの「別れの予感」であり、タイトルもこの歌詞に由来している。さりげなくかかるこの曲を会話の最中で聴き取るのは難しいが、この歌詞が作品作りの原点ともなれば耳を澄まして聞く価値は十分にある。
是枝監督最高傑作
台詞、演出、隙がない。 間がいい。 演技がいい。 真面目に演じて笑わせる。 それも、人情の機微に触れる笑い。 満員の新宿ピカデリー場内、 笑い声が絶えなかった(^o^) ワタクシ的には、 是枝監督最高の作品 と言ってしまおう。 15年前に純文学の文学賞をとったのだが 未だ何者にもなれていない ダメな五十男の物語なんだけれど、 彼と小学生の息子、 彼と亡くなった父親、 という「父と息子」の関係を軸にしつつ、 彼と存命の母親(樹木希林)、 彼とその姉(小林聡美) 彼と離婚した元妻(真木よう子)、 彼と興信所の若い同僚(池松壮亮)、 など、全て ダメな彼を見つめる視線が 厳しいけれども優しい。 同じく何者にもなれていない五十男としては その優しい目線がとっても有り難かったりする(笑) これは 何度も観たいな~。
是枝さん上手すぎてこわい
是枝さん、どんどん上手くなってる。
無駄がシーンがどんどん無くなっていってる。是枝さん、ほんと怖い人だ。
日本人監督としてはトップレベルに上手い。
ホント、是枝作品くらいだよ。
安心して見れる映画を作るのは。
是枝さん特有の、生活の中に潜む細かい描写に、より磨きがかかってて、所々笑わせてくれた。
線香の燃えかすが溜まって線香が刺さらないだとか、お母さんがカルピスのアイスを作ったりだとか、孫が泊まるからと嬉しくなってお風呂沸かすだとか。冷蔵庫のドアを開けるたびにお姉ちゃんが前かがみになって避けるだとか。誰もがなんとなく経験ある様な、日常の中のちょっとしたホッコリを入れてくるあたり、とても上手。
ちなみに海外では小津安二郎をどう思うかなどと良く聞かれるらしいが、主な影響は向田邦子、山田太一に受けていると公言してる。
それらの細かい描写を活かすのは、やはり役者陣の巧さだろう。
今作も役者陣は是枝作品の常連さん達。
是枝さんと息が合っているんだろう。
監督の求めているものもわかっているんだろう。みんなハマり役だった。
特に樹木希林さんは最高だった。普遍的な母になってた。誰もが自分の母と重ねる瞬間があるだろう。
阿部寛も、今まで見た阿部寛の中で一番ハマり役だった。すげぇダメな男なんだけど、嫌いになれない。
実際に是枝さんと阿部寛は、それを意識してキャラクターを作り上げていったらしい。
ダメな男だけど、観客が嫌いにならないように、と。これとても高度な事してると思う。
是枝作品に初参戦の池松君が結構良い味出してて、彼の物語も見たいなと思った。
今作の主題歌 ハナレグミの深呼吸のミュージックビデオでは、池松君の物語を少しだけ描いてる。
是枝さんは自分の私的なものを映画に入れ過ぎないように心掛けていると言っているが、今作は是枝作品の中でも特に私的な匂いがした。
舞台の団地が実際に是枝さんが住んでいた所ってのもあるし、是枝さんの幼い頃の夢は小説家。今作の主人公は、書けなくなってしまってはいるが、小説家だ。
そして主人公は日頃から良い言葉などを小説の為にメモを取るが、是枝さん自身メモを取る人らしい。
(西川美和監督も同様との事)
お父さんの遺品は葬式の翌日に捨てた、というシーンは、実際に是枝さんのお母さんがやった事らしい笑
是枝さんはインタビューでゾッとしたと答えている笑
なぜここまで私的なものになったかといえば、今作は海街diaryと同時に進めていたらしく、海街が原作ものだから、その反動だったのかもしれない。
今作はセリフに「アレ」が多い。
「あんまり言ってもアレだしなぁ」
「そういえばアレどうだった?」
など、代名詞としてのアレが多い。
海街diaryも多かった。
意識的に、セリフとして、「アレ」を入れてる。こういうセリフを書く事は普通ないから、是枝さん気に入ってるんだろうな。今後の是枝作品に増えそうだ。
今作のラストは、甘やかさず、厳しすぎないラストになっていた。
「幸せってのは何かを諦めないと得られない」というセリフがキーワード。
主人公が諦めるものは2つあって、
1つは、奥さんとよりを戻す事。
2つは、小説家を続ける事。
劇中でラジオからテレサテンの「別れの曲」が流れ、それが暗示する様に、
映画のラストでは、奥さんを諦める事になる。
その諦めが主人公の成長を示し、終わる。
彼はその後、小説に集中するのだろうか。
それとも小説も諦めて、他の幸せを獲得しに行くのだろうか。
また、是枝さんにとってこのラストがどの様な意味を持つのか。
是枝さんは奥さんと娘さんがいるはずだが、このラストは、何を示しているのだろうか。
そんな事を考えさせるラストでした。
余談だが自分は川越出身で、西武線をよく使うので、映画の雰囲気を共有できてよかった。
なんだか得した気分です
最初の30分ぐらいはなんだか眠いなぁ…なんて思ってしまっていたけれど、後半はなんだかみなさんの言葉が自分に言っているようなきがして…すごい頑張ろって思える映画でした。 あとやっぱり樹木希林さんの演技はすごいです。 あとエンドロールのハナレグミさんで涙が… 浄化されました。
みんな観ようよ
どうしようもないやつなのに、なんでこんなに愛おしく、泣けるんだろう。人生の一部分を切り取っただけ、何も起こらない物語の中で、登場人物それぞれに誰が悪くて誰が良いなんて決していうことの出来ない魅力がある。 世界に誇れる是枝印にもかかわらず、公開直後にしてお客さんスカスカなのが心配(´・_・`)
憎めないダメっぷり。
夫として、息子として、父親として、職業人として、 こんなにもダメっぷり全開なのに なぜか憎めない、ああ、その感じ分かる、 という気分にさせるのは、 是枝監督の脚本ならではであり、 阿部さんの持ち味でもあるのでしょう。 最後の「硯」のエピソードの着地点を 見る人はどんなふうにとらえるでしょう。
「海よりもまだ深く」、テレサテンの「別れの予感」の歌詞の一節が映画のタイトルに。
Movix堺で映画「海よりもまだ深く」を見た。 日曜日の午前中なので劇場ロビーには多くの人がいた。 しかし、「海よりもまだ深く」の観客は50人はいなかったと思う。 中年男、阿部寛は15年前に文学賞を一度受賞した作家。 離婚した妻、真木よう子から求められる長男の養育費を払えないほど日々の暮らしにも困窮している。 阿部寛はリリー・フランキーの探偵事務所で働きながら事務所の後輩の池松壮亮とともに調査対象を脅したり、、裏取引を持ちかけたりして日銭を稼いでいる。 そうやって稼いだ金員も競輪や宝くじに費やして浪費している。 真木よう子が新しい恋人である小澤征悦と過ごしているのを尾行したり嫉妬深いところも見られる。 阿部寛が姉である小林聡美を尋ね金を無心する場面や、 金を求めて樹木希林の家を家探して金を見つけられなかった場面はとても可笑しい。 大型の台風が関東地方を襲ったある夜、 阿部寛の実家の樹木希林宅から帰宅できなくなった 阿部寛、真木よう子、長男はそこで一夜を過ごすことになる。 その深夜に、ラジオから流れるテレサテンの「別れの予感」を阿部寛と樹木希林が聞くことになるのだが、その曲の中の一節「海よりもまだ深く」がこの映画のタイトルとなっている。 教えて 生きることのすべてを あなたの言うがままに ついてくこと それだけだから 海よりもまだ深く 空よりもまだ青く あなたをこれ以上 愛するなんて わたしには出来ない あなたは自分のなりたかったおとなになっていますか? このように問われたとき、「はい」とよどみなく言えますか。 自分のなりたかったおとなににはほど遠い自分がいる。 満足度は5点満点で5点☆☆☆☆☆です。
海よりも深く自分の人生を愛す
まだ「海街diary」の余韻が残りつつも、是枝裕和が続けて贈る監督最新作。
個人的に毎回ハイスコアの是枝作品だが、今回も期待にそぐわぬ良作。
オリジナル脚本で、望んでいた大人になれなかった中年男とその家族の物語。
篠田良多。
15年前に一度文学賞を取ったっきり、その後全く芽が出ず、「執筆の取材の為」と探偵事務所で生活費を稼ぐ日々。時に依頼主だけじゃなく、調査相手からも悪どく金を要求。
稼いだ金はすぐギャンブルへ。あっという間に浪費。金欠。
結婚していたものの、愛想尽かされ、離婚。息子への養育費は滞りがち。
元妻に未練タラタラで、探偵という仕事を利用して身辺調査。恋人が居ると知り、ショック…。
良多の登場シーンが秀逸。
親の居ぬ間に勝手に上がり込み、金目の物を物色。仏壇の饅頭を一口パクリ。
やってる事は立派な家宅侵入・窃盗。オイッ!(笑)
…と言うように、画に描いたようなダメ大人。
ここまでダメダメだと逆に天晴れ!
それを阿部寛が演じる。最高!
そんな良多だが、度々母親に会いに行っている。
母・淑子は団地で気楽な独り暮らし。
団地の外観もかつては賑わってたであろうが今は寂れ、中も染み付いた生活臭がツンと匂ってきそう。
大勢集まると、狭くて狭くて…。
ちょっと入りたくないくらい汚れた風呂場。
訪ねると、おせっかいでお喋り。
暑い日は、冷凍庫でカチンコチンに凍らせた冷蔵庫臭たっぷりのカルピスをスプーンでほじくりながら…。
もう、マジで自分の祖父母の家を思い出した!
二人共もう亡くなったが、団地住まいで、日曜には両親と毎週のように会いに行った。
ニコニコと出迎え、ちょっと濃い目だけど手作りの祖母の味。
帰る時は、「泊まってけ、泊まってけ」。
部屋の窓から手を振って見送り。
あのカチンコチンのカルピスなんて、間違いなく食べた!
昔の記憶が蘇り、作品世界に入り浸ってしまった。
それらを絶妙に表した演出、そして樹木希林の演技については、もはや言葉を重ねなくてもいいだろう。
ひょんな事から淑子の家に集った良多と元妻と息子。
台風直撃で一晩泊まる事になった元家族は…。
劇中の良多さながら、ついメモしたくなる台詞も多い。
「何処で狂ったんやろ、私の人生」
「男ってのは失ってから初めて愛に気付く」
「全てひっくるめて私の人生」
「誰かの過去になる勇気を持つのが大人の男」
「そう簡単に望んだ大人になんかなれないんだよ」
まるで自分の事を言われてるような、自分の心を見透かされているような台詞の数々に胸がチクチク。
これらの台詞が表すように、切なくて可笑しい本作。
でもそれ以上に、温もりこそを感じた。
良多は確かにダメな大人だけど、実はとても母親思い。(金目の物を物色しておいて、見栄張って母親に小遣いやって、その後姉に金を借りに行くなんて、どうしても憎めない!)
そんな母も、大器晩成(になるであろう)の息子が可愛くて仕方ない。
良多の探偵の後輩も、ダメな先輩を慕っている。(池松壮亮、好演)
良多の息子の表情から、父親の事をどう思ってるかは読み取り難い。
しかし、雨の中のアレ。
良多も自分の亡き父親としたというアレ。
良多の父親もギャンブル好きの困ったダメ親父。
そんな父と比べられるのが嫌な良多。
でも、良多も息子もただ単に自分の父親が嫌いという感情だけではなく…。
祖父・父・息子、やっぱり血の繋がった似た者同士なんだなぁ、と。(この子役が巧い)
真木よう子が演じた元妻。
恋人が元旦那の小説を読んだと言い、「で、どうだった?」と聞き返した時のちょっと嬉しそうな表情。
99.9%は元旦那にうんざりしてるけど、0.1%は…。
女性は前の男の事はキッパリ忘れるというが、一度は愛し合って夫婦になった男と女、そう容易くは…。
それぞれの複雑な思いを胸に過ごした一晩は、それぞれにとってもケジメ。
ここでまた台詞が心に残る。
「幸せってのは、何かを諦めないと手に入らないもの」
不思議な事に、映画で成功者の華麗なサクセス・ストーリーを見ても全く面白くないのに、ダメ人間の不器用な人生を見てると堪らなく愛しい。
全員がじゃないけど、多くの人が同じ思いを抱いているから。
なりたい大人があった。
こんな人生の筈じゃなかった。
なれなかった人生の中で、不器用に幸せを見出だす。
皆、海よりも深く自分の人生を愛している。
ありふれた日常を描いた?
・・・まだ深く、これから考えます。 キャストの演技力はさすがです。東京の三多摩、清瀬の団地。都会という感じがしないユルイ雰囲気をうまく出していると思います。 やや訴えかけるテーマが弱いかもしれませんがそれはそれで多摩には。・・・お後がよろしいようで。
嫌いじゃないです
ダメになった家族、夫婦の日常を切り取った一コマ。 誰にしろある普通の日常が、こうやってゆっくりとドラマになってゆく。 派手さはないものの、じわーっとくるセリフがあったり。 結局、何も変わらなかったけど、何かが始まった感じも受ける。 見終わって、そんな後味が残る映画でした。 自分は、嫌いじゃないです。(笑)
阿部寛と樹木希林の演技力に魅了
一つ一つの言葉やシーンが実に良く練られている印象を受けました。阿部寛や樹木希林含め、どの俳優の演技が素晴らしい。是枝氏は日本を代表する監督であると言っても過言ではないでしょう。
この歳で見れて良かった。
なりたかったものになれる訳ではないでもその中で幸せを見つけて毎日笑って生きてる。 掴めないものとも分かってる。宝くじも一緒。 でもそれがあってこそ。 高校生で見れて幸せでした。そしてなによりハナレグミさんの音楽が最高でした。
海よりもまだ深く
映画は作り物であり、嘘です。しかしその嘘をどれだけ本物のベールで覆い被せるかによって名作と駄作の分かれ道となる。さて、本作は大げさな感動作でもなく派手さもなく、ただ淡々と現代の普通の人の普通の日常を追っていったものだが、味のあるよくジャストフィットな配役で、繊細微妙な会話を通してほとんど本物と見紛う擬似日常空間を作るのに成功している。それでいて心の琴線に触れる場面に思わず涙腺を刺激もされる。カンヌなら言葉の壁があるが国内では間違いなくここ数年の傑作と言えると思う。
観た後で幸せになれる作品
ドラマには着地点が必ず存在するが 現実の人生においてあるべき着地点は明確でない。 日常というものは本来無味無臭でドラマのように刺激的ではないのである。 この作品にはいくつかのエピソードがあるが 主人公とその周りにいる元妻、息子、母親、そして父親は この作品の冒頭とラストにおいてその関係性はなんら変わっていない。 実際、他人の一言や一夜の体験で人生観が変わるはずもなく、 翌朝も淡々とした日常が続くのは極めて現実的なのである。 ただ、この作品の中の”日常”を観た後に、なぜかある種の 幸福を感じる。 この幸福感こそが、是枝作品の真骨頂なのではないだろうか? 同時にお腹に重たい豪華キャストの作品や、観た人間が皆泣く 作品が上映されているが、それらの映画鑑賞で荒れた胃に優しい七草粥のような作品であるのは間違いない。
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