「もったいぶらない、それが最大の魅力。」君の名は。 onjuさんの映画レビュー(感想・評価)
もったいぶらない、それが最大の魅力。
日本ばかりか、全世界で評判になっている本作、その熱狂ぶりの気がしれない、と思う人も多いのですが、私も見ていてそう思いましたからわかります。「これが名作?大丈夫か日本人!」と。
でも、ちょっと待ってください、その感じ方は、上品なのかもしれないですが、あまりにも夢のない、スれた物の見方かもしれない。
映画とは作品とは、こうあるべきだ、とか、現実ってのはこうだとか、人様に見せるものは恥ずかしくないものを作るべきだとか。
いや、もっと正直でいいんじゃないか。
もったいぶった生き方に慣れてやしないだろうか。それはすなわち、簡単に希望を口にせず、諦めを受け入れ続ける人生観でもあるというのに。
そんなこんなに縛られて思ってることも感じてきたことも言い出せない人生観に縛られてて幸せだろうか。いったい何がそんなに恥ずかしいというのだろう?
希望というものは、おセンチなかっこいいものではなくて、欲望だ。欲のないところに、希望なんかない。
だからと言って何もかも、取っ払われた世界ではなく、むしろ、この作品世界の人たちにとっては、とても厳しい世界かもしれない。
けれどそんな厳しい世界であってもあきらめなくていいんじゃないか。たとえ記憶がなくたって、生まれ変わったも同然の出会いであったって、そんな出会いを感じた、なんて恥ずかしくって言い出せやしない想いだって、
諦めなくていいんだよ、
そんな欲望を感じて捕まえようと行動することこそ「希望」っていうんだ、それくらい切実な思いを持って生きることが人生だ、
だからこそ、面白い。人生は面白くなり得るんだと。
この作品は希望という名の欲望に驚くほど素直で、何の躊躇も、疑問すらも持とうとしない。そこが最大の魅力であり絶対的な破壊力だと言える。
そのうえで、じらす。外したり、じらしたりを徹底している。
ただ意外なほど与えられただけではバカバカしいことも、こんなに丁寧に繊細にじらされたり、現実の厳しさや諦めを感じさせられたりを繰り返し徹底されると、その刺激は倍増するし、執拗な執着心も芽生えてしまう。
人間は難しくもあり、単純でもある。
その人生の中でいつまでもホントの生きがいを感じ続けていくことは、いつまでも子供のころのままの純粋で新鮮な心を持ち続けることが許されないように、難しい。
でもだからこそ誰にとっても心から渇望している感覚でもある。
心から素直に笑い、泣き、求め、絶望し、だからこそ執拗に、願う思いがあることを悟る。
「君の名は。」
その演出が、そしてラストが、いかにあざといものであったとしても、ヒロインが我知らず流す涙の重さは、ひしひしと伝わってくるのです。
映画館を出て、現実の風景の美しさを感じた時こそ、見てよかったと気付く映画です。