「『秒速5センチメートル』のバージョンアップ版」君の名は。 ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)
『秒速5センチメートル』のバージョンアップ版
孤高の映像作家「新海誠」。緻密な自然描写と目も覚めるほどの幻想風景に乗せて、描くはアドレセンスの塊である十代の少年少女。それらを統合して出来上がるのが新海ワールド。観る者の心を掴んで離さない。
だけど、だけどもこの人の作品にずっと付いて回る印象っていうのは、素朴さ、手作り感、青臭さ。
正真正銘のプロなんだけども、時折、鑑賞中に何処かでふっと覗かせる素人っぽさというか、未完成さ?はたまた未成熟さ?なのか。それらを感覚的に察知してしまう映画好きさん達は、彼の作品には常に一家言あるというか。「いやいや全然好きなんだよ?好きなんだけどもさ、ついつい難癖をつけたくなるんだよなあ」的な。的なものがね、あるんです。
その「隙」とでも言えばいいのかな、まあそれがこの人の持ち味でもある部分で。良きと悪きの紙一重(言ってること、伝わりますかね?)。
……しかし一体どうしたことでしょう?と。この『君の名は。』にはそれがなかった。全く見当たらない。これが東宝からのメジャーデビューを果たした男の底力なのか?進化なのか?と。
いやあああ、ちょっとびっくりですね。大傑作ですよ、これ。
ヨーロッパ圏で大活躍してた映画監督がハリウッドに招待されて作ったら瞬く間に凡作ばっか連発するってパターンあるじゃないですか(誰とは云いませんが)。それとは真逆。メジャーの力を手に入れたら数段階すっ飛ばしてのパワーアップを果たしちゃった。
いや、デビュー作から在る彼らしさみたいなもの、センスは勿論作品内のコアであるのに変わりはなくて。それはもう作中の随所にあって。
青春の儚さ、脆さ、切なさ、甘酸っぱさ、胸を焦がされるモノローグ、もう全部あります。それらを総動員しても尚、ネック(敢えてこう表現します)となる青臭さが出ない。むしろ全編を通して滲みだすのは甘酸っぱさ。甘酸っぱさが作品を包み込み、そしてそれを最大限に引き出すのが『RADWIMPS』の楽曲達。「これはこういう世界観ですよ」としっかり指し示している。我々はその世界軸に乗っかる。
ラブコメ路線なノリから中盤で一気に転調して、まさかここまでに壮大なSFラブファンタジーに発展するとは!という世界。世界観、世界軸。やあ、もう大満足ですわ。ふわふわとした心持ちでね、鑑賞中も鑑賞後も。甘酸っぱさに包まれて。今もふわふわとしてる。
で、鑑賞後にね「あ、これってひょっとして」となって。この人の名前がぶわーっと世間に注目されるきっかけとなったのは『秒速5センチメートル』という作品です。これはまあ、内容を観てもらうと分かると思うんですけど、なんとなく『君の名は。』と、ちょいちょい被るんですね、全体的に。ラストにも賛否があった作品で、今でもファンの間では解釈を巡って小競り合いが起こるという。それについて新海誠も知らない訳ではなくて、コメントも出してたりしてて。それでね、自分ふと思ったんですよ。
『君の名は。』って『秒速5センチメートル』のバージョンアップ版なんじゃないか、て。メジャーの力を借りて、また新たな『秒速5センチメートル』をやり直したんじゃないか、て。あ、んーいや違うな。『秒速5センチメートル』へのアンサーが『君の名は。』だったんじゃないか、の方がしっくりくる。
あの作品での問題を、この作品で解いたのかもしれない。皆さんは、どう思われたでしょうか。
そんなことをだらだら考えたりしながら今は『RADWIMPS』の『前前前世』を聴いています。