君の名は。 : インタビュー
神木隆之介×上白石萌音×長澤まさみが語る、新海誠監督への揺るぎない信頼
これほど物語の説明が難しい作品もなかなかない。「心と体が入れ替わった男女が織り成すラブストーリー」では壮大な物語のきっかけを説明したに過ぎない。中盤以降、それまでとは全く異なる表情、壮絶な景色を見せつけられる。「とにかく見てもらえるとわかるんですが…(苦笑)」「見終わった後で語り合いたい!」「出演しているから言うわけじゃなく!」――。アニメーション映画「君の名は。」に声優として参加した神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみは取材中、もどかしそうに、しかし、観客の反応が楽しみでならないといった面持ちで、そんな言葉を次々と口にした。(取材・文・写真/黒豆直樹)
「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」など、“新海ワールド”と称される繊細な表現で見る者の心を鷲掴みにしてきた新海誠監督の最新作。女子高生の三葉と男子高生の瀧は、会ったこともないはずのお互いの心と体の入れ替わりに遭遇する。幾度も入れ替わりを経験し、現実を受け止めて徐々に打ち解けていく2人。ある日、瀧は三葉に会いに行くことを決意するが…。
瀧を演じた神木はもともと、過去の作品の舞台となった場所を訪れるほど新海作品の大ファン。これまでの作品の魅力を十二分に理解した上で、本作について「いい意味でこれまでの新海監督とは違う。これまでとは異なる新たな大きな一歩を踏み出されたと感じさせる作品」と評する。
「例えば、僕は新海監督ならではの魅力といわれると空のイメージが浮かぶんです。どの作品でも空が綺麗で、シーンによっては切なさを感じさせますし、回想シーンではこの世にはないような、でもリアリティを感じさせる色遣いがされていたりする。そういう繊細な、これまで培ってこられた魅力はしっかりと受け継いでいるのですが、一方でこれまでとは違う壮大な世界観、テンション、開放感を感じさせる作品だなと思います」。
三葉に扮した上白石は「新海さんの作品には、何かずば抜けてできるような特別な人は出てこない。ともすれば学校には三葉のような子がいるし、街を歩けば瀧くんのような人に出会うかもしれない。そんな普通の人たちの素朴さが素敵だと思います」と魅力を語る。そんな上白石が、本作でどうしようもなく惹かれたというシーンがある。正確には三葉が心の中で発する言葉に心を揺さぶられたという。
「三葉の心情の流れを表すひとつひとつの言葉に接して『ああ、これは新海監督の作品なんだ』と強く意識しました。揺れ動く中で『でも確かなことがひとつだけある――』と言うんですけど、そこはすごく思い入れがあるし、イメージを膨らませました」。
長澤が演じたのは、瀧にとってバイト先の憧れの先輩であり、入れ替わりをきっかけに距離を縮めていくことになる奥寺。長澤の心を捉えたのは、アニメーションから感じられるはずのない“匂い”だった。
「人間の記憶って、実は匂いで覚えている部分がすごく多いと思うんです。新海監督の作品は、画から匂いがしてくるような気がするんですよね。映像の美しさ、鮮明さ、ディティール、そしてセリフが薫りを感じさせてくれるんだなと思いました」。
新海監督はスタジオジブリの宮崎駿や「サマーウォーズ」「バケモノの子」などで知られる細田守のような、自ら画を描くアニメーション出身の監督ではない。むしろ色彩選びやカット割り、言葉のチョイス、そして声優陣の演技など、演出・構成の面で持ち味を発揮する監督といえる。3人が驚いたと口を揃えるのが、実際に声を入れるにあたって、事前に送られてきた、監督自らが全てのキャラクターの声を入れたガイド映像のビデオコンテの存在。神木はそのガイド映像から、監督の意図や伝えたいニュアンスを十二分に感じたと振り返る。
「それはまだ全ての画が入っているわけではないのですが、監督の声が素晴らしくて、正直、その時点で感動してしまいました(笑)。何でここで少し間を開けたのか? 何でここはつめたのか? そうしたひとつひとつの部分から、監督が大事にされていることが伝わってくる。リアルな心の動きを大切にされていて、アニメの表情がコロコロ変わったりはしないのですが、ふとしたセリフのニュアンスで感情を伝えてくれる。僕は、感情は曖昧なものだから、正解がないのでないかという思いで演じていたのですが、監督の指示はすごく的確で、曖昧さの中できちんと正解を導いてくださるんです」。
神木の言葉に、上白石と長澤も我が意を得たりとばかりに深くうなずく。上白石は、オーディションに現れた彼女の声に新海監督がほれ込み、即決。「何百人に会ったとしてもきっと彼女だったろう」と言わしめ、事前に「三葉はお任せします」と言われるほどの信頼を得てアフレコに臨んだが、彼女もまた、新海監督を深く信頼していた。
「決して決めつけることなく、こちらに委ねて自由に演じさせてくださりつつ、『もうちょっとトーンを上げて』とか的確に指示をくださるんです。逆に監督がOKをくださったなら、大丈夫なんだという安心感をもって臨むことができました」。
改めて、それぞれにこの作品の魅力、見どころを尋ねると、それぞれ「難しい(苦笑)!」「何て言えばいいのか…」と頭を悩ませるが、それは言葉での説明などではなく、見てもらえば魅力が一発でわかるという確信の裏返しでもある。
物語そのものについては見てのお楽しみとしか言えないが、3人は言葉を探しながらこう語る。
神木「『秒速5センチメートル』は見終わった後に何かを探したくなるような物語でした。『言の葉の庭』は雨の描写が美しく、梅雨の季節が好きになるような作品だったと思います。この作品は…とにかく美しく、そして深い。視覚だけではなく聴覚、そして長澤さんが仰るように嗅覚…いや、五感どころか第六感までもが刺激される作品です」。
上白石「私と同じ世代の高校生や大学生の方が、ラブストーリーにキュンキュンしに来てくださると思いますが、それを超えた物語になっています。最初から描かれている何気ない描写が伏線になっていたりして、切ない恋愛物語であると同時に推理小説のようでもあります。出演者としてではなく、先に作品を見せていただいたひとりの観客として『絶対に見て!』と言える作品です」。
長澤「この映画では“結び”というのがすごく大切に描かれているんですよね。いまは、そこにいてもいなくても、人と人が簡単にコミュニケーションをとれる時代。だけど、本当の信頼関係を築いたり、本当の意味で『人を知る』ってことは、結びが固く強くなくてはできないことだと思います。これだけ身の回りが便利になっても、人間は自分自身を便利にすることはできない。そんなことを教えてくれる映画だなと思います」。