「【”若さと老い。そして束縛からの解放。”若き日の名声に束縛された老いた作曲家と映画監督のスイスアルプス山麓のホテルでの交流を軸に、二人と関わる人の姿を不思議なショット満載で描いた作品。】」グランドフィナーレ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”若さと老い。そして束縛からの解放。”若き日の名声に束縛された老いた作曲家と映画監督のスイスアルプス山麓のホテルでの交流を軸に、二人と関わる人の姿を不思議なショット満載で描いた作品。】
ー パオロ・ソレンティーノ監督作品としては、初鑑賞である。そして、今作は、好みの作品である。-
■高名な英国人音楽家・フレッド(マイケル・ケイン)は、引退後、アルプスの高級ホテルで優雅なバカンスを、友人の名映画監督のミック・ボイル(ハーヴェイ・カイテル)と過ごしている。
彼の元に、英国女王から彼が作曲した名曲「シンプル・ソング」の指揮の依頼が舞い込む。だが、その依頼を二度も断るフレッド。
一方、ミック・ボイルは新しい映画製作に意欲を燃やし、スタッフ達と協議するが、主演を依頼しているミックが育てた女優ブレンダ・モレル(ジェーン・フォンダ)に出演を断られ、フレッドの前で投身自殺する。
そして、明かされる、フレッドが固くなに指揮を断っていた理由は、妻のメラニーしか「シンプル・ソング」は歌えないというものだった・・。
◆感想
・スイスアルプスの麓にある高級リゾート・ホテルが舞台である。何故か庭にはチベット仏教の僧侶がアルプスを見ながら座禅を組んでおり、物凄く太ったマラドーナが杖を付いて呼吸器を使用人に運ばせながら歩いている。
不思議なテイストだが、好みである。何故か、リューベン・オストルンド監督作品が頭を過る。
・フレッド(マイケル・ケイン)とミック・ボイルは、ホテルに滞在している人たちの中で、全く喋らない老夫婦が、食事中に会話をするかで賭け事をしている。
そして、ある日老婦人はイキナリ夫の頬を激しくビンタして立ち去るのである。一人テーブルに残り、スープを啜る夫。
その姿を、フレッドは複雑な顔で見ているのである。このシーンも、フレッドの心を揺るがす切っ掛けになったシーンであろう。
・ジミー(ポール・ダノ)は、ロボット映画の役で有名だが、その役のみが先行してしまい悩みを抱え、皆が食事をする中、ヒトラーの恰好をし食事をするが嫌悪感を露わにした人たちの表情を見て、食卓を激しく叩いてしまう。
彼も又、ミック・ボイルと同じ、過去の名声に囚われた人である。
・フレッドの娘、レナ・バリンジャー(レイチェル・ワイズ)は、彼の秘書として滞在しているが、結婚しているミック・ボイルの息子から、女性を紹介され別れを告げられる。その理由は、”ベッドが、巧いから・・。”
そして、レナが”私だって・・。”と言った時に、フレッドが慰めようとしてレナに言った言葉。”控えめに言って、私はベッドでは最高・・。”ウーム、作曲だけしていたのではないのだね・・。
■不思議なシーン
1.チベット仏教の僧侶が空中浮揚するシーン
2.物凄く太ったマラドーナがテニスコートで、テニスのボールを左足で高々と何度も蹴り上げるシーン
⇒ それぞれ、”解放”を暗喩しているシーンとして解釈する。
・フレッドは、ミック・ボイルが自死した後に、病院にいる精神を病んでいるようにしか見えない妻メラニーの病室を訪れる。
レナ・バリンジャーがホテルにいた時に、彼に恨みがましく何度も言った言葉。”お母さんから、お父さんが作曲しているから、静にしなさいと何度も言われた。”という言葉を思い出す。妻の病気が、フレッドが若き時に、作曲に没頭していた事と、何度も浮気をしていた事が遠因であろう。
<そして、フレッドは漸く、英国王室の要請に応じ大観衆の前で、名曲「シンプル・ソング」の指揮をする決意をし、燕尾服を着てステージに立つのである。
メラニーは、ホテルで知り合った登山家のルカと崖を上り、メラニーは窓を眺めているのである。
今作は、若き日の名声に束縛された老いた作曲家と映画監督のスイスアルプス山麓のホテルでの交流を軸に、”若さと老いと束縛からの解放。”をテーマに描いたヒューマンドラマなのである。>