「才能と創作意欲に惹かれるラブストーリー」ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
才能と創作意欲に惹かれるラブストーリー
「ラブストーリー」と呼ぶと誤解を生みそうで慎重さが必要だが、それでもこの映画のことは「ラブストーリー」と呼びたい。
日本語には「女房役」という言葉があるように、時に同じ目的を共有する者同士の絆と相性を、夫婦に喩えることがある。この映画に登場する作家と編集者のふたりも、さながらそのような関係を築く。互いの才能にほれ込んだ二人が衝突しながらも、絆と信頼の上で傑作を生みだし、しかし次第にすれ違っていくその様は、まるでラブストーリーの筋書きを借用したかのようであるし、作り手もそれを意識しているのでは?と思うような節もある。かと言ってBL的だということはない(その辺だけは誤解を招かないようにしないと)。ただ、作家と編集者の関係を描くうえで、その関係をロマンスに喩えたかのような表現の仕方というのはユニークであるし、それによって関係性が分かり易くなる部分もあり、なかなか悪くなかったかもと思う。
終盤の展開が随分と駆け足で、非常に重要な展開だったわりに実にあっさりと終わったような印象が残る。それぞれの意思がすれ違ったまま訪れてしまう絶対的な別れには、もう少し深みと余韻が欲しかったという気もするし、その言い足りなさを手紙でいいまとめてしまうというのも(文章で繋がれた絆であったとはいえ)ちょっと芸がないのでは?と感じた。
この映画はキャスティングが絶妙だ。何しろコリン・ファースとジュード・ロウだ。ファースは自身のイメージを利用して温かみのある堅物役を買って出て、のびのびと演じるジュード・ロウを受け止める側に立つ懐を見せるし、一方のジュード・ロウはブレイク直後の妖しさや野性味やそれと同時に持ち合わせていた純真さやロマンティシズムみたいなものを復活させており、久しぶりにジュード・ロウのイメージに近いジュード・ロウを見た、という感じがした(ここの所、どちらかというと「性格俳優」的な役柄が多かった)。この二人が演じたことで、作家と編集者の間に芽ばえた燃え滾るような絆と信頼がはっきりと浮き彫りになり、多少の物語の言い足りなさを補うだけの力強さと説得力が出たように思う。
実話を基にした作品だと、ただ歴史文献を読んだだけのような感覚で終わってしまう作品が多い中、この映画は実際の出来事であることを脇に置いても、二人の人間の友情と絆の物語として十分楽しめるものになっていた。その上で、トマス・ウルフの作品を読んでみたい、と素直に感じられる作品だった。