「過去の悲しみを知ることは今の幸せを知ること」アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
過去の悲しみを知ることは今の幸せを知ること
日本でも大ヒットを飛ばした『アリス・イン・
ワンダーランド』の続編は前作から3年後が舞台。
過去に囚われて瀕死のマッドハッターを救う為、アリスが
“アンダーランド“の過去を巡る冒険へと繰り出す。
前作のキャラクターも多数登場する本作なのだが、
7年振りの新作だというのに序盤は語り口がせわしなく、
あのキャラもこのキャラもお久し振りねえという
感傷に浸らせてくれない(なにせ前作の主要キャラ
の大半がいきなり全員集合してるので個々の
インパクトは薄め。もっとチェシャ猫見せて。)。
そんな駆け足な印象を受ける序盤こそ不安を感じたが……
厳格だがどうにも間のヌけてるナイスな新キャラ
“時”が登場し、アリスが“アンダーランド”の時空を
自在に行き来できるようになるあたりから、
いよいよ物語も波に乗り出す。
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まず見所は、そのファンタジックな映像美!
絢爛で奇妙な“アンダーランド”は大スクリーンで
観る価値大アリだ。
虎の敷物やチェスの馬が動き回るビッグな部屋、
“時”が住む歯車仕掛けの時計塔、
無数にぶら下げられた“命の時計”を管理する巨大空間、
中世風だけどどことなくオモチャみたいな街並み、
気色の悪い蔦と虫だらけの“赤の女王”の住み処……
クライマックスで世界全てが赤く錆び行く様も恐ろしかった。
(「タイムパラドックスだ!」と某博士が叫びそう)
あと、時を荒れる大海のように表現した点がステキ。
上でも下でも波がうねる様子はダイナミックだし、
水面に潜ったり飛び出したりしながらシームレスに
時空移動するアイデアが秀逸。そもそも日本でも
“覆水盆に帰らず”なんて言うよう、水と時は似てる物。
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生き方を制限されていた女性が自由を手にするという
女性讃歌的な面もある本作だが、思うにこの映画の
最大のテーマは、“時”が語る言葉にこそある。
過去に戻るという強大な力を得てもアリスは
過去を改竄(かいざん)する事ができなかった。
“時”はアリスをこう諭す。
「過去は変えられない。そこから学びたまえ」と。
アリスが学んだのは、過去に囚われすぎず、
今の幸せの大切さを噛み締めること。
「時は残酷な泥棒だと思ってた。だけど、
時は奪うより先に与えてもいるの」
亡父を大切に想うあまり、母の行動を頭ごなしに
非難したアリスは、父の愛情を理解できなかった
過去を悔いるマッドハッターと自分の姿を重ねた。
変えられない過去に囚われすぎると、
心は錆びついて動かなくなってしまう。
大切なものを失う悲しさを痛いほど知っているのなら、
いま目の前にある大切なものを手離さない努力をしないと。
もうひとつ。
前作のアリスは自分の力を信じることで大きな成長を遂げた。
冒頭から男顔負けの力強さを見せるアリスに
これ以上の“のびしろ”があるのかと思っていたが、
自分を信じられるようになったアリスは、
今度は自分の大切な人を信じることを知った。
不可能と思うかどうかはたぶん関係無い。
大事なのは、その人を信じて、その人の為に必死になれるか。
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全体的なテンポが駆け足だったり、マッドハッターの
家族が赤の女王に監禁されて生きていたというのは
ちょっと都合が良すぎるスジにも思えるけれど
(あと前作を観ていないと全然話が分からないハズ)、
僕は正直、前作より今作の方が好きである。
前作の別れのシーンはこのレビューを書いてる
今も思い出せないくらいなのだが、
今回の別れのシーンは泣ける。おカタい“時”が
最後に見せる微かな笑顔や、マッドハッターの
優しい別れの台詞には心を動かされたし、アリス
だけでなく母娘揃って力強く踏み出すラストも清々しい。
時や記憶に関するテーマも自分好みということで、
大満足の4.0判定!
<2016.07.01鑑賞>
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余談1:
アリスが精神病棟送りにされるシーンから、
“アンダーランド”はアリスの想像の産物なのでは?
というダークな解釈が生まれてしまう訳だけど、
まあ個人の想像力だけであそこまでの心の成長は
望めないでしょうと思いたいところ。
そういう業の深い解釈は『アリス・イン・ナイトメア』
シリーズあたりに引き受けてもらおうということで。
余談2:
さようなら、アブソレム。
さようなら、アラン・リックマン。
あの素敵な声がもう聞けないなんて、寂しいよ。