ドクター・ストレンジ : 映画評論・批評
2017年1月24日更新
2017年1月27日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
トニー・スタークに匹敵する存在感。カンバーバッチが共感できるスーパーヒーローを名演
ヒットを連発しているマーベル・スタジオが、映画の題材に困ることはまずないだろう。なにしろ原作となるマーベル・コミックには80年近い歴史があり、すでに数えきれないほどのキャラとエピソードが存在する。だが、映画に登場するヒーローたちは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)と呼ばれる物語世界を共有するため、どんなキャラクターでも映画化していいというわけではない。「アベンジャーズ」シリーズを軸にした壮大なストーリーに貢献しつつ、これまでのヒーローにはなかったフレッシュさが求められる。
オフビートなSFコメディの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」やミクロのスーパーヒーローを描く「アントマン」などはその好例で、今回の「ドクター・ストレンジ」も見事なチョイスだ。腕力やテクノロジーに依存しない魔術師という設定はとても新鮮だし、MCUの舞台をこれまでの物質世界から精神世界に移すことで、バトル漫画にありがちなパワーインフレを回避することに成功しているからだ。
「インセプション」にインスパイアされただまし絵のような映像世界で展開するバトルはたしかに圧巻だが、もっとも独創的なのはクライマックスだ。通常のマーベル映画では破壊行為がエスカレートしていくだけなのに、本作ではまったく違う映像表現が導入されているのだ。
その一方で、交通事故によってすべてを失った主人公スティーブン・ストレンジの再生物語も手堅く描かれている。なによりアメコミ映画初挑戦となるベネディクト・カンバーバッチがいい。もともと高飛車な天才役を得意とする彼だが、自虐的なユーモアをふんだんに取り込んで、魔術師という寄りつきがたい役柄を、共感できるスーパーヒーローに仕上げている。その存在感はロバート・ダウニー・Jr.演じるトニー・スタークに匹敵するほどで、今後のアベンジャーズを牽引する存在になりそうだ。
(小西未来)