マネー・ショート 華麗なる大逆転 : 映画評論・批評
2016年2月23日更新
2016年3月4日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
「何でもあり」のマネーゲーム、その空虚な本質に迫るスリリングなドラマ
共にアカデミー賞候補になった「スポットライト 世紀のスクープ」と同様、この映画は結末が知れ渡っている物事の「過程」をドラマにしている。アメリカの住宅ローン市場が崩壊し、2008年、リーマン・ショックに端を発する金融危機が勃発する。そんな結末がわかった上で、それまでに何があったのかを、危機を予測した投資家やトレーダーの視点から描いている。金融危機という爆弾が炸裂するまでに導火線がじりじり燃えていく様子を、スリリングなドラマに仕立てた点が秀逸だ。
投資家のマイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)が住宅ローン市場の危険性を察知したのは、リーマン・ショックの3年前。彼や彼の動きに追随したトレーダーたちは、金融バブルを謳歌する証券マンの嘲笑を浴びながら、逆張りの投資に打って出る。そんなトレーダーたちの調査のエピソードを通じて、マイケル・ムーアが「キャピタリズム マネーは踊る」の中で「狂ったカジノ」と呼んだ金融界のハチャメチャぶりが浮かび上がってくるところが面白い。犬の名義で住宅ローンが組まれていたり、不良債権の合成麻薬のような商品が作り出されたり。何でもありのモラルの低さは笑いを誘う一方、今もこのカジノを中心に世界経済が回っているのかと思うと背筋が寒くなる。
映画のもうひとつの面白さのツボは、バーリたちの予想が的中したことを喜ぶ単純な痛快話に終わっていないことだ。アメリカ経済の「負け」に賭けることで勝利するバーリたち。しかしブラッド・ピット扮するカリスマ・トレーダーが言うように、彼らの勝利は無数の庶民が失業や破産に追い込まれることを意味する。加えて、自国が戦争に負けて傷つかない国民がいないのと同じように、バーリたちも様々な形で傷を負う。勝っても負けても人の心を蝕み、周囲に多くの犠牲者を生むマネーゲーム。その空虚な本質に迫っている点が、リーマン・ショックの再来のような金融危機が起こりつつある今、特にタイムリーに感じられる映画だ。
(矢崎由紀子)