あの頃エッフェル塔の下でのレビュー・感想・評価
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少々バランスを欠く我が青春の三つの思い出
外交官のポール・デダリュス(マチュー・アマルリック)は永年の海外生活を終えて久しぶりに故郷のフランスへ戻ることとなった。
現地の愛人に別れをつげて帰国したはいいが、パスポートに不備があるとの理由から入国管理官に留められてしまう。
取調官(アンドレ・デュソリエ)に詰問されることで、大学生時代にソ連でパスポートを他人に渡したことを思い出した・・・といったハナシ。
原題は「Trois Souvenirs de Ma Jeunesse」、わが青春の三つの思い出。
タイトルどおり、少年時代、ソ連での非合法事件、三歳年下の女性エステルとの甘美で切ない恋愛模様、の三つが章となって展開していきます。
日本題の『あの頃エッフェル塔の下で』は第三部エステルを全面に押し出したもの。
田舎町ルーベを離れてパリで暮らすポール(カンタン・ドルメール)とエステル(ルー・ロワ=ルコリネ)の恋は、距離的ハンデキャップを許容しても、幼く未熟な恋。
互いが互いを必要としていながら、物理的に離れているがゆえに、かえって相手を束縛し、寂しさから裏切っていく。
振り返ると、青春時代の恋愛は甘美で美しいといわんばかりの映像表現で、特に互いにやり取りする手紙をモノローグで語るさまを正面から撮るという超絶主観的追想映像で綴る語り口は、ほれぼれしてしまう。
しかしながら、全体としては、すこぶるバランスが悪い。
母親を懼れていた少年時代や、ふとした経緯でパスポートの書面上とはいえ分身を生み出したソ連への冒険譚の尺が短く、恋愛譚と上手く融合してこない。
そこへ持ってきて、先の二つのエピソードでは、回想する端々でアイリスインやアイリスアウトを多用して、ポールの想いの重さを曖昧にしており、観ている方としては甚だ居心地が悪い。
三つのエピソードの後に語られるエピローグも、エステルを寝取った旧友との再会を描いているが、パスポート問題で突然思い出したような甘美な過去を穢されて憤慨するというだけなので、これもまた観客側からは甚だ未熟で身勝手にしか見えない。
まぁ、その後、過去の残滓がポールに降りかかる幻視のようなシーンがあるので、甘美な過去は過去、いまのお前は虚しい、といっているようにも思えるのだけれど。
全体的には、やはりバランスが悪いという印象は変わらない。
たぶんに、デプレシャン監督が物語を語るには、2時間という尺は短いのだろうと思う。
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