「失ったものは大金より欲しかったものなのか」ハイネケン誘拐の代償 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
失ったものは大金より欲しかったものなのか
誘拐の素人がお金持ちを誘拐するも、逆に人質に振り回される。
邦画でも岡本喜八監督で北林谷栄が超お金持ちのおばあちゃんをチャーミングに演じた『大誘拐 Rainbow Kids』があったが、こちらはシリアスで実際の事件が基。
ビール王、フレディ・ハイネケン。
1983年に起きたその誘拐事件。
当時個人としては最高額の身代金が要求。
その犯人はプロの集団や巨大犯罪組織ではなく、犯罪に手を染めた事も無い幼馴染みの5人の若者であった…。
リーダー格が仕事に行き詰まり、人生一発逆転を賭けて、無謀とも言える誘拐を計画、実行。
一応計画は練ってあるものの、ほとんど行き当たりばったり。が、驚くべき事に、誘拐に成功!
後は要求した身代金が支払われたら完璧だったのだが…。
1ヶ月近く経っても身代金が支払われない。
警察はちゃんと捜査してるのか、ハイネケンの会社は経営者を心配し身代金を支払う気が無いのか…?
いよいよ仲間内でもイライラや不安が募り始める。
現状維持、ハイネケン解放、ハイネケンを殺せ、そもそもやるべきじゃなかった。…
さらにそこに、ハイネケンの傲慢な言動…。
やっと身代金が支払われる事となり、再び好転したかと思いきや…。
今も謎めいた部分があるというこの事件。(あ、勿論、事件については全く知らなかった)
事件の顛末は描かれているが、事件の捜査視点やどうやって事件が解決したかは描かれていない。匿名の情報があって、犯人たちの特定や事件解決になったとか。
事件を捜査側から見たかった人には期待してたものとは違うかもしれないが、本作はあくまで犯人たちに焦点が絞られている。
絆や友情が固かった若者たち。
犯罪に手を染めた時点で、それが崩壊する事は目に見えていた。
が、彼らには見えていなかった。大金という欲に目がくらんで。
大金を手に入れた事は出来たものの、結局は逮捕。
失ったものの方があまりにも大きかった。
それは大金より欲しかったものなのか…?
友情、自分の人生…。
彼らの末路は哀しいが、自業自得でもある。
犯人たちを翻弄したハイネケン。
でも、単なるワガママジジイって感じ。
せっかく“ハンニバル・レクター”なのだから、もっと知的で圧倒的な存在感あるキャラ彫りをして欲しかった。
先述通り、謎めいた部分もある事件。
事件の詳細が明かされるのも興奮だが、事件がひと部分謎のままなのも魅力。
それもまたミステリー。