劇場公開日 2015年5月23日

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サンドラの週末 : 映画評論・批評

2015年5月19日更新

2015年5月23日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー

泣き虫のサンドラが勇敢なヒーローに成長する「二日と一夜」の物語

監督のダルデンヌ兄弟がリストラされる女性を主人公に選んだのは、「ロゼッタ」に続いて二度目。だが、解雇通告に対する両ヒロインの反応は対照的だ。「ロゼッタ」の主人公は、暴れて抗議する。一方この映画のサンドラ(マリオン・コティヤール)は、ふてくされて寝てしまい、励ましてくれる夫の前でもメソメソ泣いてばかりいる。ロゼッタは強すぎてうっとうしかったが、サンドラは弱すぎてうっとうしい女なのだ。

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そんなサンドラが、原題の「二日と一夜」の間にたどる変化の過程を、私たちは目撃することになる。解雇を告げられた金曜日、夫に尻を叩かれて会社へ直談判に行ったサンドラに与えられた課題は、月曜までに16人の同僚を説得し、「サンドラの復職の代わりにボーナスをあきらめる」という答えを過半数から引き出すことだった。が、自分より生活苦にあえいでいる仲間に、「金をあきらめてくれ」と頼むのは酷な仕事だ。実際、土日に同僚の家をまわるサンドラは、何度も自分の無力さに泣き、何度も自己嫌悪に陥る。しかし、同僚の中にはボーナス派から復職派へ転向してくれる者も現れる。それがささやかな希望の光となり、サンドラを前へ進ませる。

この物語が、労働問題を反映させた社会派ドラマ以上に心にしみるのは、サンドラの二日と一夜の道程に人生を重ね合わせることができるからだろう。社会のシステムや人間関係からはじき出され、折れた心を抱えて泣き、家族の励ましと友情にささやかな希望を見出し、先へ進もうと踏ん張る。サンドラがたどる道のりは、人生の営みの中で繰り返されるルーティンそのものだ。そして、そのルーティンの最後に、私たちは苦しんだ分だけ自分が成長できればと願う。サンドラはそれを実現させる。「何をやってもダメな子」から「やればできる子」へと、意識の持ち方で自分を変えていく。泣き虫から勇敢なヒーローへ、ごく普通の人間の脱皮を鮮やかに演じるコティヤールが見事だ。

矢崎由紀子

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