劇場公開日 2015年9月19日

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心が叫びたがってるんだ。(2015) : インタビュー

2015年8月31日更新
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長井龍雪&岡田麿里「あの花」の監督&脚本コンビが明かす、最新作に込めた思い

2011年4月から放送され「泣ける!」と大きな反響を呼んだ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(通称「あの花」)の長井龍雪監督、岡田麿里(脚本)、田中将賀(キャラクターデザイン、総作画監督)が再結集し、劇場版オリジナルアニメとして製作された最新作「心が叫びたがってるんだ。」が9月19日に公開される。「あの花」と同じく埼玉県・秩父を舞台にした青春映画とあって、期待が高まるのは当然。公開を前に完成に向けて作業が続くなか、長井監督と岡田に話を聞いた。(取材・文・写真/黒豆直樹)

幼い頃に何気なく発したひと言が家庭を崩壊させてしまったことから、言葉を発することができなくなった主人公の女子高生・順(声の出演:水瀬いのり)が、ミュージカルという形で歌に思いを乗せることで言葉を取り戻していくさまをみずみずしく描き出す。

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長井、岡田、田中の3人で新作をというオファーが届いたのは「あの花」TVシリーズ終盤の時期。唯一の注文は「主人公が高校生」であることだった。TVアニメ「とらドラ!」「あの花」に続く3人での仕事だが、どのようにして物語やキャラクターを練り上げていくのか? 「監督」「脚本」「キャラクターデザイン」とそれぞれの役割はあるものの、長井監督いわく、企画会議は「ほとんど雑談に近い」とのこと。脚本の岡田も「なんだかんだと3人で一緒にいる時間が長いんです。そうやって、どうでもいい話をしながら見えてくるものがあるんですよね」と説明する。

本作では「言葉」や「伝える」ということがテーマになってはいるが、「何を」ではなく、タイトルにもあるように「叫びたがっている」という欲求そのものが重要なのだと長井は言う。

「順がしゃべれるようになっていく姿を描いてはいるんですが、話せたところで(思っていることが)100%伝わるわけじゃないんですよね。どれだけ言葉を尽くしても伝わらない部分や、逆にモヤモヤしたものが必ず残る。そういう部分の方がむしろ大切なんじゃないか? 『何を叫びたいか?』ではなく、そのモヤモヤをすくい取っていくと何が見えてくるのか? そうやってキャラクターを掘り下げて、出てくるものが見たかったんです」

脚本に言葉を落としていくことを生業とする岡田も、長井と同じ思いを抱きながら脚本をつづっていった。

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「叫びたい言葉や、伝えたいことが具体的にあるわけでもないんですよ。順が『いくつか言いたいことがある』と言うけど、本当にそれが伝えたいことでもなく、まさにただ『叫びたがってる』んです。私も長井くんもよく『なんか……』と言うんですけど(笑)、まさにこの『なんか』というモヤモヤをぶつけようとしてる『なんか、叫びたい』子たちの物語なんだと思います。ぶつけてどうなるわけでもないけど、『ぶつける』ってひとりじゃ完結できないことで、それは誰かとつながろうと思ってるってことなんです」

「あの花」に心をつかまれたファンは当然、その傑作を生んだ長井×岡田×田中だからこその物語を期待する。それでも、長井も岡田も決して「あの花」を意識して本作を作ってはいない。同作の成功例を踏襲するのでも、あえて反対のことをしようともしていない。「不思議と『あの花』のプレッシャーというのを全く感じないんです」と口をそろえる。「震災直後ということもあってか、『あの花』の時は見る人が『泣ける』という部分にすごく反応してくれて、こっちも『それに応えなくちゃ』という思いがあった」と言う長井。今作では「今はハッピーエンドを描きたい」という思いを強くし、その結果として当人が言うところの「地味な(苦笑)」物語ができあがった。「実写的」と称され、深夜枠での放送ながら、コアなアニメファンではない層からの支持が厚いと言われる長井×岡田作品だが、長井が口にする言葉からは、その魅力の秘密が見えてくる。

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「僕は(アニメーター出身ではなく)自分で画を描けないですが、だからこそ『こういう画が見たい』という思いがあって、それが雰囲気だけでも伝わるようにと絵コンテを描いてます。実写的と言われる部分は全く意識していなくて、自分は漫画とアニメで育ったようなところもあるので『むしろアニメって元々こうだよ?』とも思ってます。話が地味なんですよね(笑)。その地味さがアニメっぽくない(=実写的)のかなと思います。ただ、普段アニメを見ていない人たちのことは確かに意識していて、アニメだけで通じる表現は避けてます。アニメだから許される表現だけで構成されちゃうと、それは内輪受けになってしまうと思いますから」

そして岡田は、長井の監督としての「ジャッジ力」と「バランス感覚」に絶大な信頼を寄せる。

「テクニックに溺れることがなく、常に客観視して作っていく監督だと思います。なのに、長井くんの映像には生っぽい“快感”があるんですよね。監督の中には酔っ払ってドライブをかけるような“ひょう依型”の方もいれば、すごく冷めた“計算型”の人もいますが、長井くんはそのどちらにも偏らない。きちんと計算はしているけれど、重要視しているポイントは感覚寄りで、変わったことを目指しているわけではないのに似た監督に出会ったことがないんです。3人で出したアイディアをまず私が脚本にするわけですが、長井くんがいるからこそ“ここ”という部分を思い切って強く脚本に出せる。本人はよく『地味』と言いますけど(笑)、ちゃんとドライブしていて華やかさがある。長井くん独自のバランス感覚が、華やかさを生み出してるんだと思います」

五感すべてを総動員させ、登場人物たちの叫び、そして繊細な表現のひとつひとつを受け止めてほしい。

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