ズートピア : 映画評論・批評
2016年4月19日更新
2016年4月23日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
胸アツポイント満載!現代社会のリアルも活写して大人を唸らせるディズニーの大傑作
「ズートピア」はヒロインと同じく、小粒だがピリリ。たった109分の中に、ビックリするほどたくさんの美点とお楽しみ、メッセージが詰め込まれた、万人が満足できる傑作エンターテインメントだ。
まず、子どもにとってはめちゃめちゃテンションの上がる面白さが、ディズニー作品の中でも最上級。キャラはかわいいし、スピーディでギャグも冴えまくり。しかし、本当に楽しめるのはむしろ大人たちである。ここには今現在の社会における「差別」など容赦ないリアルが活写されていて、そのメタファーを読み解く楽しみに気づかされるから。雪だるまはいつか溶けるという真実さえ教えられない「アナと雪の女王」とはわけが違うのだ。
監督が宣言しているように、擬人化された動物たちの世界を描いた本作が訴えるのは人間界そのもの。肉食動物と草食動物が進化により仲良く暮らすようになった世界で、多種共存の大都市ズートピアに上京してくるのが「警察官になりたい」という夢を不屈のがんばりで叶えたウサギのジュディだ。エキスプレスが停車するとネズミ仕様の極小ドアが開くところから、ワクワク感満載である。しかしここはユートピアなどではなく、「ありのまま」では立ちゆかない世界。ちっちゃい、女性、かわいいという理由で差別&偏見にさらされたジュディは正当な評価とクビをかけ、キツネの詐欺師、ニックを相棒に失踪事件の謎を追うことになる。「不当な扱い」に泣いたことのある人なら誰もが、共感&応援せずにはいられない!
グラフィックな美しさと遊び心いっぱいのディテールをもつ世界観、奇想に富んだオリジナルな展開は「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」の頃のピクサー級レベル。動物たちの「ステレオタイプ」が風刺にも笑いにもなり、ちりばめられた伏線が回収されていくのが気持ちいい。ミステリーとサスペンス、冒険に富んだストーリーの中で浮かび上がってくるのは、「自分と違う」という恐れから差別や偏見を生みだす人間たちの愚かしさ。そして「個性を尊重し、違いを受け入れ合う」ことで世界を平和にできるという熱い希望だ。なんだか今現在、差別と偏見に苦しんでいるイスラムの人々を思わずにいられないし、醜い差別発言を繰り返す富豪の大統領候補に見せて、恥を自覚させたくもなる。
また、ジュディと正反対で偏見に屈してしまったニックのサブストーリーは涙ものだし、過ちを犯したジュディの成長物語、夢みることの意味、バディ映画としての醍醐味、ディズニー作品への自虐から「ゴッドファーザー」、「ブレイキング・バッド」までをネタにしたオマージュと、浅いところから奥深いところまで胸アツなポイントの宝庫。何よりおかしいのは、免許を持つアメリカ人なら誰もがイライラさせられた経験ありという陸運局をおちょくったキラー・キャラ、ナマケモノ! 泣くほど笑えるこいつが、後味も最高にしてくれる。
(若林ゆり)