ナイトクローラーのレビュー・感想・評価
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異常なまでのコンプレックスが生む社会の病巣
予告編を見た時からかなり期待が高まっており、ハードルがあがりすぎていることに内心不安もあったのだが、いい意味で期待を裏切られた。世界観に完全に引き込まれた。人々の破滅の瞬間に現われるギレンホール演じる主人公のルーは、その不気味な外見もあいまって、さながら死神のようだった。病的なまでに彼を突き動かすのは、己に対する異常なまでのコンプレックスである。相棒のリックに対する見下した態度は、学歴もなくコソ泥のようなことをしてきた自分に対する周囲の冷ややかな態度から、20歳以上も歳の離れているだあろうTVディレクターのニーナにビジネス以上の関係を求めるのは(それは劇中では全く描かれていないが)彼の家庭環境、特に母親へのコンプレックスからくる反動のように思えた。
また一部を除いてルーの撮影したリアル「すぎる」映像に誰も不信感を抱かないことに、TV業界の怖さも感じた。
サイコパスという成功者
これ見て思い出したのは、「サイコパス」の中には優れた経営者もいる、という話。他人に対する共感能力は著しく低いが、他人の気持ちを読み、弱みを見抜き、人を操る才能があるという。
主人公は異常には違いないが、こういう人間は実際に「いそう」だし、またこういう人間が実際に社会で成功するんだろうな、というところが、現代社会の歪みが凝縮されたような映画だと思う。
大作のアクション映画とは全く違うテイストだが、アクションやスリラーの緊迫感はこちらの方がはるかに上で、ほとんど最初から最後まで気が抜けない。
このような話にありがちな、
主人公の行動が次第にエスカレートして、あるとき一線を越え、破滅の道を突き進む
というものとは「違って」いる。
主人公の行動はエスカレートしているのではなく、はじめから最後まで一貫しており、一線を越える行動をとるところでも迷い、葛藤、後悔は全くない。また、最後に主人公が破滅して終わることを様々な伏線で期待させておきながら、結局彼の未来に渡る成功を予感させるところで終わっている。
勧善懲悪にしないのは、現代を風刺する意図を明確にしたいからだろう。
様々な問題提起がある。
テレビのニュースというものは、結局視聴率狙いになっていて、また作り手の意図に沿った内容になっていること。
裕福な白人が貧困層や有色人種に残虐に襲われる事件を選んで報道していること。
ニュース番組やテレビ会社が倫理を厳格に守っているように装っている一方で、映像素材を撮っている方に汚れ仕事が押し付けられていること。
一般視聴者は、結局政治や経済の話よりも、ショッキングな犯罪の映像に興味を持つこと。
ベンチャー企業の社長がインターンと称して新人をタダ働きさせたり、それを精神論で正当化させている状況など。
こうした様々な歪みは、それぞれの立場や現場の人間が単に彼らの中でのベストを尽くそうとした結果に拠っているのであって、誰か特定の悪人がいるわけではない、ということも。
より根本的な問題提起として、この社会における「成功」とは、古典的な意味での良心や倫理感を捨てることなのではないか、ということ。
主人公のパートナーは、成功者としていそうな主人公の人間像と対比して、失敗者としていそうな人間像として、明確な対照になっている。
目先の利益しか考えられず、将来の目標や向上心がなく、自分の能力のアピールもできない。世渡りのための嘘が下手。言い訳ばかりで解決策を提示しないこと。犯罪に手を染めることには臆病だが、それは良心というよりは、単に自分が犯罪者になるリスクをとりたくないから。一旦主人公の弱みをにぎったら、態度を豹変させて強請ることもする。
大勢のパートナーのような凡庸な人間が、一部の主人公のような目標に向かって突き進む人間に支配されている、というのがこの社会なんではないか、と思わせる。
主人公の目的は、結局、社会的に成功する、ということに尽きるのであって、実は報道には何も理想を持っていない。そこに寒々としたものを感じる。
この社会を動かしている、いわゆる「できる」人間といわれる人達の正体がこのような人間ばかりだったとしたら…。
不屈のヤジ馬根性と、金への執着。そして尊大な虚栄心。これらが主人公...
不屈のヤジ馬根性と、金への執着。そして尊大な虚栄心。これらが主人公ルーを突き動かし続けた。
さも、もっともらしいことを言いながら周りの人間を巻き込み、殺人も交通事故も、飯の種になろうものなら手段を選ばず、突き進む。
そこに戸惑いや同情は一切ないと言っていい。
しかし、人間が視覚の情報を最も信用することをルーは直感的に分かっており、どう撮れば一番刺激的かも心得ているので、行動にある種の潔ささえ感じられる。
ロサンゼルス=犯罪都市のイメージは、我々がこれまで見てきた数々の映画やドラマによって知らぬまに刷り込まれていただけでなく、本作に登場する「事件事故パパラッチ」の暗躍があったからだろうと改めて感じた。
ただ、レネルッソが演じた役がちょっとキャラクターが弱い気がした。
そのくらいジェイクギレンホールがドギツかったんだが。
パパラッチの限界
イライラ&モヤモヤ
序盤のコソ泥の時のから悪い意味で勘違い野郎な主人公が助長して行く。
それは違うだろ感からくるイライラ&モヤモヤを感じつつ、映画の中のニュース映像に興奮している自分に気がついた。完全にひき込まれてるw
終盤にかかる前に少しもたつきはあったけど、全体的なテンポは良く、賛否ありそうな中途半端なラストも個人的には悪くなかった。
素晴らしいよ
上質スリラー
頭脳明晰で努力家であるものの、しがない盗みで日々暮らしている独り者のルイス。ある日、居合わせた事故現場での報道パパラッチを見て、自分も始めてみることにする。持ち合わせたスキルと目的意識を最大限活かし、あっという間にLAのTV報道の世界を駆け上がっていく…。
観ていて怖くなるその理由は、ルイスの世の中の見方や生き方は、私達が普段「こうあるべき」と言われているような、成果主義であったり、常に勉強して学ぶ姿勢であったり、自分を安く売らないことであったり、相手にとって唯一の貴重な存在になることだったり、利益か損失かを見極める事だったりするところにある。私達が目指している人間像とは、こんなものだったのか?と立ち止まる事になる。ルイスは、綿密な計画を立て、大いに勉強し、常に成長することを望み、一歩一歩確実に上に上っていく。しかしそれが観ていて怖いのだ。人間味がないからである。その点、ルイスのアシスタントの駄目さ加減が人間らしさを出していて、対比の描かれ方が面白いと思った。
世の中のビジネス書や自己啓発でよく語られている事を本気でやると、成功はするけど、冷たく心さえないような人間になってしまうのかと、LAはもしかしてこんな人で溢れているのかもしれない、と怖くなる映画である。
オススメ。
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