花とアリス殺人事件 : 映画評論・批評
2015年2月17日更新
2015年2月20日より新宿バルト9ほかにてロードショー
思春期に出会った花とアリスの、奇妙なバランスの信頼関係をアニメ化
人と友達になる瞬間というのは覚えていないものだ。「花とアリス殺人事件」は、岩井俊二が2004年に原作・脚本・監督を務めた「花とアリス」のスピンオフ・アニメで、花とアリスが出会う前から始まる物語。犬同士が遊ぶ時、彼らはただ走り回る。じっと目を合わせたりすることなく、ただじゃれ合い、疲れると付かず離れずの場所で休憩する。夕方の空き地で、近所の犬と遊ぶ自分の犬をぼんやりと眺めていた幸せな時間を、花とアリスが走り回る姿に重ねて思いだした。
まず最初に気に入ったのが、アリスの性格が良いところ。はすっぱだけど、付き合いが良くて優しい。両親の離婚、転校、そしてクラスでのいじめなど、思春期にふりかかる暗く面倒な出来事に、ドライに向き合うアリスはどうしてあんなに強いのだろう。そして、なかなか登場しない花の、暗さと聡明さを際立たせる男の子のような低い声がすごく新鮮。やっと転がり始めた事件の真相に、なかなか辿りつかないグダグダした二人のやりとりが、中学生のあの感じでグっとくる。少しずつ、奇妙なバランスで積み重ねられる信頼関係が、ささやかに丁寧に描かれている。
実写から描き起こされたロトスコープというアニメーションの手法が、バレエのシーンではとくにハッとさせられる。するすると動く手足は、実写とはまた違う気持ち良さがある。遠景での人の動きや、スローモーションでの演出など、独特で印象的なシーンも多く、アニメとしての面白さも凝縮されている。実写ありきであっても、それぞれのキャラクターデザインが、そこまでリアル寄りではなく、表情や動きには、アニメらしい大胆な演出もあり、コミカルな動きが楽しい。背景は水彩で繊細に描かれているので、叙情的な風景も美しく、アニメが苦手な人も、きっと楽しめると思う。
特筆すべきは、最後の最後のシーン。どこにでもあるような、でも特別に良いあの関係性。なんだか、また学校行きたくなっちゃったなー! そんな気持ちにさせる作品、はじめてかもしれない。
(衿沢世衣子)