トラッシュ! この街が輝く日まで : 映画評論・批評
2015年1月6日更新
2015年1月9日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー
タフな少年たちの魅力が、ブラジルに希望の火を灯す
ピストルを持ったまま引き金を引けずに震えている少年。「殺せ!」という叫びが聞こえる。少年がどういう状況にいるのかわからないまま、ものすごい緊張感を強いられるプロローグ。やがてその少年が語りかけてくるビデオ画面と、その少年とはまるで関係のない人物の、手に汗握る過去の一場面が提示される。これはすべて、この映画というパズルを解くためのピースとなる。
リオデジャネイロ郊外のゴミ処理場で働き、ゴミのような扱いを受けている少年たち。その中の1人、ラファエロが、ゴミの山からサイフを拾ったことから物語は転がり始める。サイフにただならぬ“何か”が隠されていることを悟ったラファエロと仲間のガルド、ラットの3人は、命を危険にさらされながら走り出す。きっかけは「儲けてやろう」だとしても、やりとげようとしたのは謎を読み解くのが「正しい」と信じたから。こうして謎に挑む少年たちを追いながら、観客もまた、映画が抱えた謎に挑むことになるのである。
オスカー常連のスティーブン・ダルドリー監督がベストセラーの原作を、「ラブ・アクチュアリー」のリチャード・カーティスによる脚本で撮り上げた本作。ドキドキハラハラのサスペンスと謎解きミステリーという大枠の中身は、「シティ・オブ・ゴッド」ミーツ「スラムドッグ$ミリオネア」といった印象だ。W杯に沸きながら抗議デモが絶えないブラジルの社会悪をえぐってみせる硬派な一面がある一方、ストーリーや人物描写には甘い部分もある。だが、製作総指揮で「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス監督が参加したことが、細部にリアリティを宿す結果を生んでいる。
何より、牽引するのは少年たち3人の魅力だ。メイレレス監督が「シティ・オブ・ゴッド」で習得した素人少年の選び方と導き方が、ここでも生きたのだろう。もちろん「リトル・ダンサー」「愛を読むひと」「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」と、少年の成長を通して物語を語らせたら右に出る者なしのダルドリー監督である。実際にスラム育ちの少年たちが身につけている生き抜くための知恵やタフネス、ものすごい身体能力に意外なあどけなさ、すべてが映画にエネルギーを与え、疾走する! 胸のすくような希望の輝きは、年の初めに味わうのにもってこいだ。
(若林ゆり)