「天才と狂気のセッション」セッション 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
天才と狂気のセッション
一流ジャズドラマーを目指し名門音楽学校に入学した主人公。そこで、スパルタ鬼教師の壮絶なしごきに遭う…。
インディーズ映画ながら今年のアカデミー賞で健闘の3部門受賞、日本でも口コミロングヒット中の話題作。
「バードマン」より見たいと思ってたいたものの、地元では上映決まらず。
ようやく隣町で公開される事となり、観に行ってきた。
「マッドマックス」の圧倒や「アベンジャーズ」の迫力とは意味が違う。
アクションやVFXに頼らぬ作品そのもの凄まじい力。
最初から最後まで手に汗握り、力が入り、息をもつかせず、片時も目を離せない。
見終わったらぐったり疲れ、自然と一息漏れるほど。
例えるなら、「ブラック・スワン」×「フルメタル・ジャケット」。
「ブラック・スワン」のような華麗なバレエの世界とは裏腹のダークさ。
「フルメタル・ジャケット」のかの鬼軍曹に胸キュンした人は必見!
こういう音楽映画にありがちなバンド内の音楽性の違いの対立や友情、個人個人の背負うドラマなどは根こそぎ削り落とし、ひたすら血と汗が噴き出すレッスン、レッスン、レッスン!
やがて二人に固い絆が芽生え…なんて甘っちょろい展開もナシ。
鬼教師フレッチャーの地獄のレッスンはさらにエスカレートしていき、主人公アンドリューはフレッチャーへの憎悪だけを胸に全てを捨てレッスンに食らい付く。
アンドリューは紛れもなく才あるドラマーだ。
が、僅かなミスも許さないフレッチャーにとって彼はそこら辺のゴミクズと同然。
そして迎えた、話題のクライマックスの演奏。
これは文字通りの“罠”。
が、某ドラマのような「やられたらやり返す…倍返しだ!」。
火花散るセッションはこれ以上ない興奮。
あまりの高揚感に胸が熱くなってしまった。
カメラワークに素早いカットの連続…ディミアン・チャゼルの演出はとても処女作とは思えない。
アンドリュー役のマイルズ・テイラーのドラムさばきはそれこそ本物の一流ドラマー。
彼を決して好感ある人物として描かず、彼もまた次第に狂気に取り憑かれ、彼こそが実はフレッチャーの最大の理解者だったようにも思う。
J・K・シモンズがマジで凄すぎる…!
しわくちゃの鬼の形相、完全なるモラハラの罵声と暴力、スキンヘッドに力こぶ…。
誰がどう見たって音楽教師に非ず体育教師。
登場する度にピンと張りつめた緊張感に包まれる。
悪夢に出てきそうだよ…。
その一方、音楽への真摯な姿勢、指揮を振る姿や佇まいは何故か格好いいと思わせる。
あるシーンの鬼の目に涙、美しいピアノの演奏、主人公と腹を割って話すあるシーンなど、この男もちゃんと血の通った人間であるとも思わせる。
かと思ったら、やっぱり冷酷無比。
アメとムチ…いや、ムチとムチ!
世の偉人や傑作の裏には、凡人には理解出来ぬ異常な執着心がある。
映画の世界なら、“天皇”と呼ばれた黒澤明の厳しい演出、スタンリー・キューブリックの100テイク、ダニエル・デイ=ルイスの凄まじい役作り…。
そういった妥協しない姿が見る者の心を惹き付けて離さない。
天才は狂気が創る。
狂気から天才が産まれる。
その天才と狂気に身震いする。
公開を待っていた甲斐があった。
一度見たら忘れられないインパクト!
本年度ベスト候補!
> 見終わったらぐったり疲れ、自然と一息漏れるほど。
ホントですよね。心の底から同感。
それが気持ちいいかどうかは別だけれど、そこまで観客を揺さぶることは凄いと思いました。