「傷を舐め合う弱きものたちへの挽歌」予告犯 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
傷を舐め合う弱きものたちへの挽歌
前半は現代版劇場型仕置き人物語、成敗は単なる悪人への私刑でなくモラルの欠如した心なき輩への警告メッセージ集でもありましょう。
社会正義がないがしろにされれば自力救済の機運が高まるであろうことは歴史的にも自明であろう、問題はれっきとした犯罪行為はともかく、小学校から職場まで蔓延しているハラスメントの類でしょう。「ジョーカー(2019)」でも稀代のヴィラン誕生の裏に市井の人々の弱者への心無い扱いがあったように描かれていましたね。
原作者の筒井哲也さんの視点なのでしょうが社会問題への冷徹な切り口には感服です。
派遣に対する生々しいハラスメント・シーンは胸が痛みます、小泉政権が容認した派遣制度ですが格差社会に拍車を掛け家庭さえもてない貧困な若者たちを増やしました、少子化の日本はどうなるのでしょう。
不法投棄処理場での非人道的な扱いは奴隷社会さながら、外国人技能実習生への似たような話は時々報道で耳にします。
日本人男性のフィリピン女性との火遊びでの私生児も一時社会問題になりましたね、東南アジアや中国での貧困層の臓器売買なども事実だから、本作で描かれる社会問題の数々は実に嘆かわしい限りです。
後半になって目的が明かされるが奥田のITスキルなら公安の力に頼らずとも入国管理の官庁へのハッキングで探る方法もあったように思えてしまう。何となくお涙頂戴に寄せておいて勝ち組の戸田恵梨香が批判的立ち位置キープでは当たり障りのない締めくくり・・。
同様に必殺仕置き人の時代劇なら越後屋とお代官が狙われるのが定番ですが現代の政治家へのテロがおふざけなのもメジャー製作ならではの自己規制でしょうか。もっとも暗殺事件が実際に起きているので過激に描いていたら上映禁止は免れなかったに違いない。
世の中、綺麗ごとでは済まないとは察してはいるが映画の中くらいブチ切れたカタルシスに酔わせて欲しかった・・。