「家族のアルバムをゆっくりとめくるかのような。」6才のボクが、大人になるまで。 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
家族のアルバムをゆっくりとめくるかのような。
ある少年が6歳から18歳になるまでのドラマを、
実際に12年間かけて撮影したという異色の作品。
監督のリチャード・リンクレイターは大ヒット作
『スクール・オブ・ロック』(2003) の公開前から
この映画を制作し続けていたことになる。
.
.
.
ぶっちゃけて言ってしまえばこの映画、開幕から終幕まで
ある少年の日々の出来事が淡々と綴られていくのみである。
この物語を一体どう着地させるつもりだろう?と
中盤まで不安を抱いていた。
だが映画が進むに連れて、これはいわゆる“物語”として
楽しむ映画ではないのだという事を考え始める。
登場人物達によってA地点からB地点へ導かれるのではなく、
登場人物達と共に当てもないどこかへと歩き続ける感覚。
165分という長い上映時間で、派手なシーンも無いのに、
どうして彼らから目が離せないのだろう?
どうしてこんなにも親近感が湧いてくるのだろう?
スタンダードな――つまり年代毎に異なる役者が主人公を演じる手法では――
この感覚を生み出すのは至難の技だったと思う。
作り手はそれを見越して今回の12年間撮影という大胆な
手段を取ったのだろうけど、12年間同じトーンを保ったまま
映像・演技・演出を撮り続けるなど気が遠くなるような作業だ。
定期的に公開されるならまだしも、完成できる保証も無いのに
よくもモチベーションを保ち続けられたもの。
.
.
.
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』や
『アメリカン・スナイパー』といった大型作品と共に、
2014年度アカデミー賞作品賞にノミネートされている本作。
上記2作品は未鑑賞ではあるけれど、本作を観ると、
作品を比較するという行為自体がどうにも無意味に思えてくる。
なぜって、この作品があまりに “唯一無二” だから。
同じジャンル・方向性の作品ならまだしも、
映画にはこんなにも多様な方向性があるというのに、
そこで優劣を競わせることに果たして意味があるのかと思えるから。
この映画に爆発的な感動や衝撃は無いだろう。
度肝を抜かれるような斬新な演出も無いだろう。
だがこの映画にはたしかに、誰かが歩んできた
人生の欠片が詰め込まれている。
作り手の、役者の、映画の中の登場人物たちの、
そして僕ら観客自身の人生の欠片が。
この映画はあなたに物語を与えてくれなどしない。
この映画は、あなたがこれまで歩んできた人生と
照らし合わせて初めて輝きを放ち始める作品だ。
この作品は主人公くらいの子を持つ親になった頃に観て
ようやく完成されるのかもしれない。
判定4.0としたが、僕はまだ本作を十分に観たと言えるほどの人生を歩んでいない。
10年後にこの映画を観直した時、今よりも高い判定を
付けられるような人生が歩めていたらありがたい。
懐かしくも微笑ましく、そして少し物寂しいこの手触り。
ちょうど、家族のアルバムをゆっくりめくりながら、
過ぎ去った日々に思いを馳せるような、そんな映画。
<2015.01,24鑑賞>
.
.
.
.
余談1:
文脈に沿わなかったのでこちらに書くが、
主人公の両親を演じた2人が素晴らしく良い。
パトリシア・アークエット。
macfan_0102さんが既に書かれているが、
終盤、主人公の母親が突然泣き出すシーンは、
観賞後半月経った今でも鮮明に覚えている。
人生の重みがズシリと伝わる見事なシーンだった。
そしてイーサンホーク。
甲斐性無しで別れたとはいえ、優しくフランクに、
だがあくまで真剣に子どもと向き合う親父さんは
ムチャクチャ格好良く見えた。
成長していくのは子どもだけじゃないんだよね。
余談2:
タイトルについて。
『Boyhood(少年時代)』というシンプルな原題が何故
こんなあざとく長ったらしい邦題になるのだろう?
宣伝担当の主張が作り手よりも前に出てきてる気がして
すごく厭。
ちなみに原題は当初『12years』になる筈だったそうだが、
昨年の『それでも夜は明ける(12 years a slave)』と
混合されるのを避ける為に変えたのだとか。
公開までもう少しだったのに……。