きみはいい子 : 映画評論・批評
2015年6月23日更新
2015年6月27日よりテアトル新宿ほかにてロードショー
現代の社会問題と対じする人々を鋭い洞察力と真摯なまな差しで描出
いじめ、モンスターペアレント、幼児虐待、認知症といったニュースを見ない日はないような現代の社会問題を扱いながら、心は徐々に温かい気持ちで満たされていった。呉美保監督は病巣をえぐるのではなく、問題を抱える人々の苦悩を周囲の愛で包み、新たな一歩を踏み出す勇気を示した。
実直だが思うように子どもとふれ合えずどこか諦観も漂う新米教師の岡野(高良健吾)、親から受けた虐待のトラウマで娘に手をあげてしまう主婦の雅美(尾野真千子)、認知症の初期症状に恐怖を感じる独居老人のあきこ(喜多道枝)の日々の生活が交互に描かれていく。3人の人生が交錯することはないが、同じ街で同じ時間を共有している構成が巧みで群像劇としてメリハリが利いている。
岡野が良かれと思ってした行動がことごとく裏目に出て、やけ気味に愚痴をこぼすところなどはいかにも現代風な若者然としており、雅美がママ友の前では体裁を繕いプライドをのぞかせるあたりも妙にリアルだ。2人はそれぞれ身近な人の抱擁によっていやされ、特に普段は見下していたママ友の陽子(池脇千鶴)に抱きしめられ、内包していた負の感情を一気に吐き出す尾野の迫真の演技は圧巻だ。
逆にあきこは、毎日挨拶をしてくれる自閉症の小学生・弘也(加部亜門)とのふれ合いによって、かつて無意識の万引きをとがめられたスーパー店員で母親の和美(富田靖子)が持っていた障害児の母親という後ろめたさを氷解させる役どころ。常に優しさを持って接してきたであろう人生が垣間見えるようで、喜多のさすがベテランの味と思わせる感動を呼ぶ。
そしてラストシーン、高良の決意に満ちた表情は実にさわやかで、思わず快哉を叫んだ。人は独りでは生きられない、どこかで誰かに支えられているんだと、鋭い洞察力と真摯なまな差しで描出した呉監督。新たな代表作の誕生を心から喜びたい。
(鈴木元)