劇場公開日 2015年10月1日

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岸辺の旅 : インタビュー

2015年10月1日更新
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深津絵里&浅野忠信、同年代の2人が築く慈愛にあふれた信頼関係

吸引力がどこにあったかは、いまだに分からない。だが、深津絵里と浅野忠信は何かに導かれるように「岸辺の旅」で3度目の共演を果たしたと声をそろえる。3年前に死んで突然帰ってきた夫と、その失そうしていた3年間を一緒に追体験する妻の旅路。黒沢清監督によってつむがれた夫婦の道行きは、厳しさ、切なさの中にも慈愛にあふれ、心地よい余韻を残した。(取材・文/鈴木元、写真/江藤海彦)

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「何かに導かれているような感じというんでしょうか。原作がすごく興味深く、それを黒沢監督が演出されるというのも面白そうでしたし、夫役が浅野さんということで、これはもうやることになっていたんだと思うほど、楽しみしかありませんでした。もうやるしかない、そういう感じの作品だったんですよね」

深津のこの説明を聞く限り、運命としかたとえようがない。浅野とは「ステキな金縛り」で出会い、「寄生獣」2部作で共に寄生されたのに続き、映画に限れば3作連続での共演となる。対する浅野は、運命以上の想像を膨らませた。

「『ステキな金縛り』の時に、ガッチリ共演させていただきたいという話をしていたので、最初は深津さんが企画を立てて僕を呼んでくれたんだって。やっぱり約束を守ってくれたんだ。しかも黒沢監督まで呼んでくれるなんて、深津さんってどれだけの力を持っているんだってくらいに思ったんですよ」

横で深津が笑い転げているように大仰に話しているが、あながち冗談とは言い切れないほど、浅野にとっては待ち焦がれた夫婦としての邂逅(かいこう)。40代になったからこそできる大人同士の人間ドラマを強く求めていたから実現したと力説する。

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「40代になって男女の話や人と人との関係を、今の世代の人と表現できたらとずっと欲していたので、深津さんと黒沢監督というのは本当に与えていただいたという感じで、感謝しました。深津さんも10代からいろんな作品をやられてきたと思うので、違う場所で同じような経験をしてきた人は妙に安心感があるんですよ。学年でいうとひとつ上ですけれど同じ73年生まれで僕にはドンピシャの、一緒に戦ってくれる人はこの人以外にいないって感じがしたんです」

瑞希は3年ぶりに帰って来た夫・優介に「俺、死んだよ」と告げられる。そして、誘われるまま3年の間に優介が過ごした場所を再訪する旅へ。深津にとっては再び2人の時間が戻ってきた喜びと、いずれは夫の死を受け入れなければならない苦悩が相半ばする難役だ。

「ああしようこうしようというのはあまりなくて、現場で何が生まれるかということをいつも考えていました。ただ、2人が3年ぶりに出会うシーンはこの映画のすべてで、そこがうまくいかないとすべてがうまく転がっていかないと思っていたので、大切にしたかった。それさえクリアできれば後は流れに身を任せ、お互いの波動で夫婦の関係性を築き上げていった気がします。だから瑞希は、出会った時より最後の方が楽しそうなんですよね。どんどん生き生きしていく」

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見知らぬ土地で濃密な時間を過ごし、夫の新たな一面を知りあらためて愛の深さに気づく瑞希。一方の優介も、マイペースに見えながら妻へのしょく罪の思いを秘めている絶妙なバランスで夫婦としての時を全うしようとする。そして、瑞希に向けたあるひと言があまりに切なく、そして優しく心に刺さる。

「切ないセリフですけれど、一歩引いて役者として読めば、この役をやる意味がそこにしかないという感じがあった。今の年齢でこの役に出合えたのは大きいですよね。若い頃では、ちゃんと読めなかったと思います。あのセリフが言えて良かった」

2人の旅は、カンヌ映画祭の「ある視点」部門という大舞台でも称賛され、黒沢監督も交え3人で感動を共有した。監督賞という勲章も得て、初めての深津、何度目かの浅野で思いはそれぞれだが、胸に去来したのは作品に対する確信だ。

深津「カンヌ映画祭に初めて参加して、受賞する作品に関わらせてもらえるなんて、本当にしつこいですけれど何かに導かれているとしか思えない(笑)。映画祭で受けた刺激は、絶対に大きな財産になると思うので、本当にいい経験をさせてもらえたと思います」
 浅野「映画に対して強い思いを持たないと、自分にとって受け取るものがなくなるのではないかと、ある時から思うようになったんです。その強い思いがあったからこそ、深津さん、黒沢監督に引き寄せられたんだと。そして監督賞を獲った時は、めちゃくちゃうれしいのと同時に、監督の強い思いが届いたんだ、やっぱり強い思いを持たなければいけないというところにたどり着いた感じでした」

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深津自身は「悪人」でモントリオール世界映画祭の最優秀女優賞を受賞しているが、それ以前に舞台「春琴」で英国人の演出家で俳優のサイモン・マクバーニーと仕事をしてから、海外への意識が芽生えたという。

「価値観の全然違う方とのお仕事ってすごく楽しいんですよね。こんな簡単なことをなぜバカみたいにいつまでも時間をかけて考えていたんだろうって感じでした。浅野さんもハリウッドなどで大変な思いをされているはずだけれど、それに代わる喜びと自分の身に付く力に絶対になっているはず。だから映画でも何でもいいのですが、違う国の方とはいつでもやってみたいし、浅野さんともまたご一緒できる機会があったらいいですね」

これには浅野も満面の笑みを浮かべ「あります。信じます」と強く念じたようだ。続けて「深津さんが何とかしてくる」と付け加えたのはご愛きょう。同年代の2人から垣間見えた信頼関係は、映画とは趣の違う魅力的なものだった。

インタビュー2 ~黒沢清監督、夫婦の愛と真正面から向き合った「岸辺の旅」への思いを明かす
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