GONIN サーガ : 映画評論・批評
2015年9月15日更新
2015年9月26日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー
酷薄で甘美な親子の宿命のドラマが脈打つ 監督の原点回帰にして過激な集大成
石井隆の映画は、犯罪バイオレンス映画の意匠をまとった高貴なメロドラマである。「GONINサーガ」も、一見すると、20年前の「GONIN」の続篇で、前作で無残な死を遂げた男たちの遺児が再結集し、宿敵である暴力団五誠会の裏金が集まるヤミ金を強奪する<ケイパーもの>だ。だが、その裏には血にまみれた酷薄で甘美な親子の宿命のドラマが脈打っている。
集結したメンバーは、大越組の若頭の息子久松勇人(東出昌大)、大越組組長の息子大輔(桐谷健太)、殉職した警官の息子森澤(柄本祐)、五誠会三代目の誠司(安藤政信)に囲われている元アイドル麻美(土屋アンナ)の四人。ヤミ金襲撃は成功するが、報復の手が迫り、五誠会を根絶やしにするために、誠司の結婚式に狙いを定める。ここでピースの欠片を埋める五人目が登場する。19年間、植物人間だった氷頭(根津甚八)だ。五年前にうつ病で俳優引退宣言をした根津甚八の一度限りの復活である。クライマックスで、満身創痍の根津が銃を構えた瞬間は、スクリーンが神々しさに包まれ、まるでサム・ペキンパーの「ワイルドバンチ」(69)で息絶えるウィリアム・ホールデンのように感動的である。
紅一点の土屋アンナには瞠目させられた。浴室で殺し屋竹中直人の助手福島リラと壮絶な撃ち合いを演じ、ひび割れた鏡を背に、鮮血を浴びてたちすくむ土屋アンナの美しさは筆舌に尽くしがたい。
冒頭から間歇的に流れる、ちあきなおみの「紅い花」、プッチーニの「私のお父さん」の旋律が印象深いが、土屋アンナの末期の眼に映じた幻影に森田童子の「ラストワルツ」がかぶさると、あっとなる。石井隆のデビュー作「天使のはらわた 赤い眩暈(めまい)」(88)のラストで流れたジョー・スタッフォードの「テネシー・ワルツ」と見事に照応しているからだ。「GONINサーガ」は、石井隆の原点回帰にして過激な集大成である。
(高崎俊夫)