シェフ 三ツ星フードトラック始めました : 映画評論・批評
2015年2月24日更新
2015年2月28日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
SNSで破滅したシェフが、SNSを使って再生していく人情のっけ盛り映画
この世に恐いものはたくさんあるけれど、恐いもの界のニューカマーといえば、炎上。吉原のほうではなくて、ツイッターなどSNSでよくあるアレである。この映画の主人公である老舗フレンチレストランの看板シェフ、カールの場合もまた、ツイッターの使い方をよく知らないでやったせいで炎上。人気ブロガー相手に暴言を吐き、世界中に醜態をさらすハメになってしまう。
映画はこうしたサイアクの事態からカールが再生し、人生の喜びを取り戻す過程を追っていく。一流シェフのプライドを捨て、元妻の勧めでしかたなく始めたのがフードトラック、つまり屋台でのファストフード行脚なのだが、ここで頼もしい味方になるのがほかならぬSNS。これの恐さを描いている作品はいくつもあるが、自分を破滅させたそのツールを使って起死回生というのが実に痛快! 仕返しをするのではなく、相手を見返すことで倍返し、というのがいいのだ。
ここからの映画は、全部のっけ盛りのフルコース級どんぶり飯がごとしである。料理のおいしさに一流も三流もない。カルチャーとしての料理とその官能性、フロリダからニューオーリンズとロードムービーの楽しさにソウルフード(とくにキューバン・サンドウィッチのおいしそうなこと!)、かわいい息子とがっちり結ばれていく絆、職場の同僚だった相棒との友情、ゴージャスな脇役陣に、ラテン音楽のご機嫌なノリ! もちろん、待っているのはうれし泣きだ。
誰もが共感できる人情映画は、実は製作・脚本・監督・主演の4役をこなしたジョン・ファブローにとって非常にパーソナルな作品だ。「アイアンマン」の監督で当てて以来、ビッグバジェット作品でプレッシャーと口を出すお偉方と妥協が友だちだったファブローは、疲れ果てた。そして「本当に自分が作りたい映画」をやるんだと、自分を投影して低予算で取り組んだのが本作なのだ。もともとは売れない駆け出しのころ、ロサンゼルスでくすぶっているダメな自分たちをモデルに脚本を書き、非常にパーソナルな「スウィンガーズ」で世に出たファブローである。原点回帰の本作で、彼自身も再生したことがまた、めでたいじゃないか。
当然ながらファブローは、作品のプロモーションにもツイッターを大いに活用。映画にとって口コミがどれほどの味方になったか。最新のツイッターによれば、役のモデルで料理指導をしたロイ・チョイとフード界での新プロジェクトを立ち上げた模様。日本上陸なるか?
(若林ゆり)