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開始早々繰り広げられるサスペンスの連続、犯人と主人公との息詰まる攻防戦、秒単位で次々と事態が急変してゆく様を畳みかけるような演出で見せていく手腕はさすがだ。本作は一見荒唐無稽な作品のようで当時の韓国社会を振り返るとかなり骨太な社会派サスペンスであることがわかる。
爆弾テロを起こした犯人の目的は一つだった。今まで自分たち国民の悲痛な叫びを無視し続けた国家、そしてその国民の声を代弁して国家権力を批判することが本来の役割であったはずのマスメディアがその使命を見失ってしまった由々しき現状。
もはや腐敗した国家権力同様、営利目的のスクープのみを追い続け、権力に迎合するだけの存在に成り下がったそんなマスメディアに対して復讐の狼煙を上げるために犯人は爆破テロを起こす。
犯人の要求はただ一つ、大統領による謝罪の言葉であった。国の繫栄の陰で搾取され虐げられてきた市井の人々、その叫び声に国家はいままで耳を傾けようとはしなかった。
しかし国家はそんなささやかな要求さえも拒んだ。テロリストの要求には応じない。一度テロリストの要求をのめば更なる要求が突き付けられるからだという。しかし犯人が求めたのは謝罪の言葉たったひとつだけであった。
彼はこの国の国民の一人であり彼には名前があった。テロリストという名ではない。テロ犯の要求には応じないというがその態度は国民一人一人の声に耳を傾けようとしないことと何ら変わりなかった。
劇中で政府側は犯人の要求には断じて応じないのだとしてそれを犯人と交渉する主人公のヨンファに強いる。謝罪に応じないとすれば犯人はさらに犠牲者を増やすだろう。そうすれば世論の犯人への同情は薄れ大統領は謝罪しなくても済むようになるというのがその狙いだ。
あえて犯人に罪を重ねさせてまで謝罪を拒もうとする政府側の対応に愕然とするヨンファ。なぜそこまでして謝罪を拒むのか。そうまでして権威を守りたいのか。国民の命を犠牲にしてでも守りたい国の権威とはなんなのか。
この国の権力者たちは国民の方を向かずどちらを向いているのか。そして彼も気づく、自分は今までどこを向いて仕事をしていたのかと。自分の出世だけを考えていたのではないのか。自分は国民のための真実を伝える報道をしてきたのだろうか。賄賂を受け取り権力におもねてきた、腐敗したメディアに自分もどっぷり浸かっていたのだった。
今回の爆破テロにしても最初から警察に通報していれば犠牲者が出ることもなかったかもしれない。今回の事件を機会に返り咲きのためのスクープとして利用していたではないか。
犯人は射殺され、自分をも口封じのために射殺しようとする政府。ヨンファは犯人が残した爆弾のスィッチを入れる。
ヨンファもろともテレビ局のビルは先に爆破されて覆いかぶさる建築中のビルと共に崩れ去っていく。
本作が公開されたのが朴槿恵政権の時代。奇しくも政権により表現の自由が制限された時代であり政府に批判的だとしてポン・ジュノなどの映画作家がブラックリストに載せられ弾圧された。当時政権によるマスメディアへの圧力は強く、また権力に迎合するメディアも後を絶たなかったため、同じく政府に批判的なジャーナリストやキャスターはその多くが解雇された。そんな政権はやがて汚職が原因で糾弾され崩壊の末路をたどる。
腐敗した権力と共に凋落してゆくマスメディア。本作のラストで崩れゆく二つのビルの姿。大きなビルがテレビ局のビルに覆いかぶさりテレビ局のビルはその重みに耐えられず崩れてゆく様はそれはあたかも国家権力が上からマスメディアに覆いかぶさりともに自滅してゆく姿を思い起こさせる。
それはまさに権力と共に滅んでゆくマスメディアの姿そのものであった。
時の権力とその権力におもねたマスメディアはともに滅び去ってゆく運命にあった。そんな姿を象徴するかのようなラストであった。
今回、本作のリメイク作品「ショウタイムセブン」を見て久々に再鑑賞していまさらながら本作の完成度の高さにうならされた。