劇場公開日 2014年11月15日

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ショート・ターム : 映画評論・批評

2014年11月11日更新

2014年11月15日より新宿シネマカリテほかにてロードショー

人間同士の微妙な距離感がドラマを生み出し、幸福感を味わわせてくれる繊細な映画

人間同士の微妙な距離感がドラマを作り出す。距離が離れれば緊張が生まれ、近づけば感動が生まれる。それを、これほど繊細に表現した映画を他に知らない。

原題の「ショート・ターム12」は、家庭や心に問題を抱えた10代の少年少女が暮らす短期保護施設の名称。ここで働くグレイス(ブリー・ラーソン)たちケアテイカーには遵守すべき規則がある。施設の敷地外へ飛び出た子どもの身体に触れてはいけないというものだ。だから、逃亡した子どもを連れ戻す時も、ひたすら追いかけ、言葉で説得し続けるしかない。セラピストでも教師でもないケアテイカーに求められているのは、あくまでも子どもたちを「見守るスタンス」。それが、彼らに許された距離感だ。

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その許容範囲の狭さに、グレイスたちは歯がゆさを覚える。が、それでも子どもたちとの距離がわずかに縮まり、瞬間的に心の扉を開いてもらえることもある。たとえば、親の虐待を受けていた少年が「傷が治ったかどうか見てくれ」と頼んでくるとき。あるいは、自傷癖のある少女がためこんでいた怒りを吐き出すとき。グレイスたちの胸には子どもたちへの愛おしさがこみ上げる。そして、それはそのまま私たちの胸を満たすものになる。

個人的な事情から、ある少女への「見守るスタンス」を逸脱していくグレイスは、同僚で恋人のメイソン(ジョン・ギャラガー・Jr.)との距離感についても葛藤を抱え込む。そんな彼女の人間的な成長をたどる物語を通じて語られるのは、ケアテイカーの本当の意味だ。短い人生(ショート・ターム)の中で、自分を気に掛けてくれる人(ケアテイカー)との出会いがどれほど貴重で、どれほど意義あるものか。それをデスティン・クレットン監督は感傷モード0%で描き上げた。あの少女にはグレイスがいて、グレイスにはメイソンが付いている。そう考えただけでふっと心が軽くなり、安らいだ気持ちになる。こんな幸福感を味わわせてくれる映画はそう多くない。

矢崎由紀子

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