ターザン:REBORN : 映画評論・批評
2016年7月26日更新
2016年7月30日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにてロードショー
ヒーロー映画の源流となった名キャラクターが、21世紀に適応進化
ターザン。屈指の知名度を誇る架空のヒーローだ。往年の映画シリーズを観ていない世代にまで、ジャングルで育ち、ツタにつかまって森を移動し、「アーアアー!」と雄叫びをあげる半裸のマッチョな男のイメージが共有されている。
米国人作家のエドガー・ライス・バローズが、出世作となる“ターザン・シリーズ”の第1作を発表したのは1912年。映画化は1918年に始まり、60年代末までに約40作が量産された。
「スーパーマン」や「バットマン」といったアメリカンコミックのヒーローが誕生するのは30年代後半以降なので、ターザンはいわばヒーロー物の源流だった。アメコミヒーローが超能力やハイテク装備で活躍するのに対し、ターザンは密林の猛獣と戦って鍛え上げた肉体こそが武器。本能に訴えるシンプルな力強さが、かつての少年たちをターザンごっこに駆り立てたのだろう。
ただし近年、視覚効果を駆使したアメコミヒーロー映画が勢いを増す一方で、ターザンは淘汰されてしまったかに見えた。ところがどっこい、21世紀の娯楽大作にふさわしい進化を遂げて、あの伝説の男が帰ってきた。
「ターザン:REBORN」の始まりはしかし、お馴染みの“野人”ではなく、気品に満ちた英国貴族として彼を登場させる。ジャングルで出会ったジェーンと共に大都会ロンドンへ移り住み、裕福で穏やかな暮らしを送っていたターザンが、悪者の策略によってコンゴのジャングルに舞い戻るという展開だ。
主演のアレクサンダー・スカルスガルドは、都会では品格のある美形の紳士、ジャングルでは鍛え抜いた肉体で躍動する野性の英雄を見事に演じ分けた。マーゴット・ロビーが扮するジェーンも、ただ助けを待つ受け身の存在から、しっかり自己主張して果敢に行動する今どきの女性像へとアップデートされている。
「ハリー・ポッター」シリーズのデビッド・イェーツ監督は、最先端の空撮システムでターザンがジャングルを飛び回る姿を躍動感いっぱいに描き、CGで本物と見紛うほどのリアルな動物を現出。血湧き肉躍るスペクタクルを極めて、ターザンが時代に合わせて進化できることを証明すると同時に、人類のDNAに刻まれた“野性”を刺激するのが冒険映画の本質であることを再認識させてくれた。
(高森郁哉)