「落伍者たちの暗闘」誘拐の掟 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
落伍者たちの暗闘
ローレンス・ブロック原作『獣たちの墓』の実写化作品。
相変わらずの原作未読&無知っぷりで恐縮なのだが、
私立探偵マット・スカダーはシリーズものとして有名なんだそうな。
大好きなジェフ・ブリッジス主演の『800万の死にざま』(′86)も主人公はスカダーだったそうで。
(残念ながらどこでもレンタルしてないので未だに観られていない。観たい……)
とまあ、枕詞はここまでにして本作のレビューへ移る。
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まず本作、大どんでん返しがあったり派手なチェイスがあったりする、ケレン味の利いたサスペンスではない。
事件の手掛かりをひとつひとつ、関係する人間の心情をひとりひとり紐解いていく、
非常にオーソドックスな作りのサスペンスなのだが……
なんだろうか、この映画には二束三文のサスペンス作には無い、何とも表現し難い魅力を感じる。
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まず言えるのは、ここ数年のリーアム・ニーソン主演作では一番好きだ。
彼のくたびれた雰囲気は暗い過去を抱えた老練な探偵役にピッタリだし、
終盤でいよいよ反撃に転じるシーンの、あの有無を言わせぬ頼もしさが超カッコいい。
映画全体を覆う暗く物寂しい雰囲気を僅かに和らげてくれる、
相棒(?)の黒人少年TJ(もとい探偵ダンテ・カルペッパー(笑))も良いです。
多くを語り過ぎずやや突き放したような堅実な語り口も好みだし、
ここぞという場面での目の覚めるような演出も素晴らしいが
(犯人達が少女に目を付けるシーンの音楽&映像、
クライマックスのあのナレーション被せ等にはゾクゾクきた)、
この映画の一番の魅力は、登場人物たちの魅力だと思う。
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登場する人物たちは皆、世間から弾き出され、
人生から今にも振り落とされそうになっている者たち。
犯人たちでさえもアンダーグラウンドの世界に快楽を見出だした者だ。
クスリに溺れた画家志望の青年、
母と離ればなれにされたホームレスの少年、
人生の再出発の矢先に最愛の人を殺された麻薬の売人、
そして、自らの過ちに責め苛まれる日々を送る元刑事。
原題『A walk among the tomb stones』は、『墓石の合間を歩く』とでも訳せるのだろうか。
最後の墓場での対決に向けて一堂に会する主人公たち。
安穏に暮らす人々の眼にはつかないだろう、暗く深く寒い場所で彼らは闘う。
自分の内側で僅かばかりに、だが確かに燃え残っているものを掻き集めて。
最後の対決のシーンで淡々と流れる、アルコール依存症克服の為の12ステップ……
自分が無力であると認めること。
欠点を正してくださいと神に祈ること。
今まで傷付けた人々のリストを作ること。
その人たちや他の人たちに埋め合わせをすること……
彼らは無垢な子供を殺す怪物のような犯人たちと闘っているだけではなかった。
彼らはかつての過ちを悔い、前へ進もうともがいていた。
スケールも筋立ても大したことはないこの物語がこんなにも胸に迫るのは、
墓石のように冷めかけた人生に必死に抗う彼らの胸の内がこちらにまで伝わってくるからだと思う。
ラスト、眠りに落ちるヒーローの安らいだ表情。
暗闇や鈍色の空ばかりが目につく映画で、ようやく明るい太陽が昇る。
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理不尽な犯人たちについてもっと知りたいという気持ちや(映画内の説明だけでも十分だと思うが)、
再出発の金を使ってまで闘った麻薬の売人さんの最期はありがちな上に浮かばれないなあという想いもあるが、
それでもこの映画はサスペンスの佳作だと思う。
他にシリーズがあるのならリーアム・ニーソン主演で続編出てほしいなあ。
<2015.05.30鑑賞>