「置き去りの重大問題」天才スピヴェット よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
置き去りの重大問題
初めての3D鑑賞。
これまでのジュネ監督の作品を観ると3Dは効果的かもしれないと思い、楽しみにして劇場へ赴いた。
アメリカのかなりな田舎の少年が、偉大な発明者として授賞式に出るため、ワシントンまで一人で旅をする。ロードムービーである。パット・メセニーの曲が似合いそうな、アメリカの壮大な風景は観ていて飽きない。
しかし、主人公の授賞式が終わり、家族の絆がもとに戻るというハッピーエンドだったにもかかわらず後味の悪さ感じたのはなぜだろうか。
セドリック・クラピッシュの「ニューヨークの巴里夫」でも映画全体ににじみ出てくるアメリカへの違和感。「ニューヨーク~」を観るまで思い至らなかったが、ジュネはフランス人なのだ。
映画の終わりで主人公の家族は、一人欠いたまま再生することになる。しかしながら、その一人欠けてしまった原因は残されたままなのである。一般市民の生活の中に銃器が当たり前に置いてある状況。自家の銃が暴発して子供を失う。これこそが家族をバラバラにしたきっかけを作ったのではなかったか。
この問題を解決しないまま、再びあの片田舎での暮しに戻っていく一家の後姿は、今のアメリカの人々を描いているのではないだろうか。
ワシントンで、一連の受賞騒ぎでかかわる博物館の副主任やマスコミの人間たちと、この一家とは水と油のごとく理解し合えない。映画ではコメディーに描かれているが、実は深刻なディスコミュニケーションなのではないだろうか。
広大なアメリカの国土と、そこに暮らす様々な人々が、お互いへの理解もなく一つの社会を形成している。そして、小さな生命が日常的に危険にさらされている問題を解決することもなく、心もとない感傷や連帯感によって、人々がつながっている様子を、ジュネは遠い地点から観察してる。