天才スピヴェット : 映画評論・批評
2014年11月11日更新
2014年11月15日よりシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
天才児の奇想を3D映像と子役の表情が具現化するおおらかなファンタジー
ジャン=ピエール・ジュネ監督といえば「アメリ」がすぐに引き合いに出されるが、それ以前にマルク・キャロと共同で撮った「デリカテッセン」や「ロスト・チルドレン」と比較してみると、より彼自身の本質がよく見える。つまり「アメリ」の方が斜に構えたところが少なく、人情にあふれ、暖かい。奇妙なユーモアや風変わりな人々への関心はそのままに、雑多でちぐはぐな人間関係をまるごと受け入れ、愛するようなおおらかさを感じさせる。新作3D「天才スピヴェット」は、そんな彼の個性が開花した決定打だ。
アメリの少年版と言えるような10歳の主人公スピヴェットは、天才的な発明家。モンタナ州の牧場で家族と暮らしながら、今日も空想と創造の世界にふける。だがその心には、幼くてして死んだ弟に対するトラウマが重くのしかかっている。そんなとき、発明品がコンクールで優勝したという知らせを受け、彼はひとりアメリカを横断して授賞式に出る決意をする。
壮大なアメリカの荒野を、豆粒のように小さなスピヴェットが大きなカバンを携えながら旅をする。その映像だけでもすでに胸が熱くなりそうだが、加えて独特の3D効果が観る者を楽しませてくれる。ここでは、3Dは観客を驚かせるものとしてあるのではなく、スピヴェットの奇想天外なイマジネーションを具現化するものとして使われているのだ。それがいかにもこの監督らしく、手が込んでいて楽しい。ライフ・ラーセンによる原作自体が、注釈付きのスケッチなどが入った独特なもので、ジュネはそれを見て3Dの映画化が相応しいと思ったというだけに、本作は2Dより3Dで観たいところ。大自然の風景は、純粋にリアリスティックというよりは、カラフルな絵本のような雰囲気がある。
そして最大の貢献は、儚さと純粋さと秀才らしい個性が混ざり合ったスピヴェット役の新鋭カイル・キャトレット。彼の繊細にして豊かな表情が、本作を血の通ったエモーショナルなファンタジーに仕立てている。
(佐藤久理子)