西遊記 はじまりのはじまり : 映画評論・批評
2014年11月11日更新
2014年11月21日よりTOHOシネマズ有楽座ほかにてロードショー
天才チャウ・シンチーが本領を発揮した、元祖「妖怪ウォッチ」的ホラー・コメディ
日本では“西遊記”というと、猿、豚、河童が活躍するコントのような“お笑いドラマ”と思われがちだが、この超有名な原作は、本当はもっとワイルドで、バイオレントで、猟奇的で、奇想天外な巨大なる仏教的ファンタジーだ。かつて「チャイニーズ・オデッセイ」2部作で孫悟空を演じたこともあるチャウ・シンチーが監督に徹し、愛してやまない題材に再チャレンジしたこの映画、基本的にハズレなしの彼の監督作の中でもズバ抜けた面白さと抜群の完成度で天才ぶりを遺憾なく発揮、「凄い!」としか言いようのない作品となった。
物語は、三蔵法師となる前の若き日の玄奘が、妖怪ハンターとして、後に孫悟空や沙悟浄、猪八戒となる凶悪な妖怪たちと遭遇し、戦い、やがて一緒に天竺への旅に出るまでの大冒険の序章。スー・チーが好演する最強の女妖怪ハンターというオリジナル・キャラクターとウェン・ジャン演じる玄奘の切ない悲恋がその軸となっている。
元祖「妖怪ウォッチ」的ホラー・コメディにして、斬新な衝撃に満ちたモンスター・ムービー、香港映画の伝統を踏まえた超絶カンフー・アクションに号泣ラブストーリーの要素まで加わって徹底的に楽しませ、泣かせる映画的快感の満漢全席。驚きの見せ場とナンセンスな爆笑ギャグの波状攻撃に、日本の某刑事ドラマの主題曲の憎い使い方があいまって、濃厚な喜怒哀楽が怒涛のごとく押し寄せ、哀愁と感動のクライマックスに満腹必至の大傑作。懺悔や慈悲といった、今の中国が忘れてしまった仏教的友愛で作品全体を包んでいる点も現代中国語映画として極めて重要だ。
これまでに世界中で映像化された“西遊記”は数々あれど、間違いなくこれは最高峰の1本。「ロード・オブ・ザ・リング」等にも負けないアジア発の一大伝奇サーガの胸躍る、見事な船出に拍手を贈りたい。シンチーにとってもこのシリーズはライクワークとなるハズ、本格的な冒険が描かれるはずの続編が待ち遠しい。
(江戸木純)