「真実を剥き出しにすることの痛み」ソロモンの偽証 前篇・事件 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
真実を剥き出しにすることの痛み
僕は大出君ではなかったし、三宅さん浅井さんでもなかったが、
かつてこの映画で言うところの『偽善者』だった事はある。
もう小学校の頃の話だが、30になった今でも時折、
腹の底をじくじくと針で突かれるような思いに襲われる。
古い記憶の中の振り返りたくない部分。
だがこの物語はそれを良しとしてくれない。
こちらの首をむんずと掴んで無理やり傷口を凝視させ、
容赦なくかさぶたを引っ剥がしてくる。
「柏木君に試されているような気がする」のは主人公・
藤野や神原だけではなかったのではないだろうか?
柏木の真っ黒な瞳に怯えたのは果たして
森内先生や僕だけだったろうか?
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原作を読んでいる方のレビューには省略・改変された
部分についての不満も多く書かれている様子。
だが、原作未読の自分としては、話の流れは自然に感じた。
主人公・藤野が事件に疑問を抱いた経緯も自然だし、
裁判を起こさなければと思い立った動機も切実。
藤野が裁判を開くことを決意してからの熱い展開には、
少年少女たちだけでなくこちらの気持ちまで燃え立ってきた。
まあ、検事・弁護士・判事と、裁判を開く上で適材適所な
キャラが揃い過ぎているのはさすがに現実離れしてるし、
あれほどの胆力と利発さを備えた中学生がそうそういるとも
思えないが、そこはあくまで『物語』として許容範囲か。
彼らは観客の僕らがかつて向き合えなかった問題に
立ち向かおうとしているのだから、あれぐらい
剛胆なキャラの方がこちらとしても心強い。
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ミステリ要素もさることながら、境遇や思惑の異なる
多彩な登場人物たちをそつなく整理してみせた語り口は
見事だし、どの登場人物たちにも心を動かす場面がある。
全員挙げるとキリがないが特に頭に残っているのは、
揺るぎない視線が印象的な藤野涼子。
深く暗い眼で冷笑する死人・柏木。
(瞳の上で溶ける雪のショットが忘れ難い)
屈託のない笑顔の裏がずしりと重い浅井、
やり場のない怒りを吐き出す浅井の父。
娘の本気にとことん付き合う、夏川結衣演じる母親。
対して、娘の気持ちを全然聞かない永作博美。
(バブリーな時代の言動が色々とイタい)
恨みの念で自他共に崩壊させてゆく三宅の狂気。
柏木の怨念に怯える、神経衰弱ギリギリの黒木華。
そしてメガネのクールガイ・井上(笑)。
あと松重豊センセー、あんた最高だ!
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まだ前編なので今回のスコアはあくまで保留。
だが、前編だけでもこんなにエモーショナルだとは。
柏木の死以外の謎も散りばめられたまま、いよいよ物語は裁判へ突入。
人を憎み切っていた柏木はなぜ死ななければならなかったのか?
いったい誰がどんな形で一連の騒動に関わっているのか?
この裁判で真に裁かれようとしているものは何なのか?
今から後編が待ちきれない。
<2015.03.08鑑賞>