「私たちはこの事件を苦い思い出にしない為に、異議を申し立てます!」ソロモンの偽証 前篇・事件 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私たちはこの事件を苦い思い出にしない為に、異議を申し立てます!
宮部みゆきの大長編ミステリー小説を、「八日目の蝉」の成島出監督が2部作で映画化。
本当は劇場で観たかったのだが、地元では上映されず。レンタルを待っていた。
バブル期のクリスマスの朝、中学校で見つかった男子生徒の転落死体。警察は自殺と片付けるが、「殺された」という怪文書が出回り…。
原作既読者によるとかなりカットされているそうだが、毎度の事ながら原作未読なので、違和感無く見れた。
これからの秋の夜長にぴったりな、見応えあるミステリー!
一番の見せ場は後編の“学校裁判”。
なので、どうしても前編は壮大な前振り…だけに収まらない!
謎が疑惑を呼び、思惑は複雑に絡み…。
伏線や痛烈なメッセージ性、後編を見た時もう一度見直したくなるだろう。
転落死の男子生徒・柏木はそもそも自殺なのか? 殺されたのか? 不自然な点が多過ぎる。
加害者とされる不良生徒・大出を名指しした怪文書。
怪文書を出したのは、同じく大出らにいじめられていた二人の女生徒。
その一人、ニキビが醜いという理由だけでいじめられる樹理の激しい憎しみ。
それを見ていながら助ける事が出来ないクラス委員の涼子。生前の柏木に偽善者と罵られる。
怪文書を隠蔽する学校側。
嗅ぎ付け、ただ騒ぎを大きくしたに過ぎないマスコミ。
それらがきっかけとなり、また一人また一人増える犠牲者。
担任に届けられたが、破られ捨てられた怪文書の謎。
小学校時代に柏木と付き合いがあった他校の生徒・神原の存在。
学校という名の小さな社会に蠢く闇。歯止めが利かない負の連鎖。
子供と大人の中間である中学時代は最も多感な時。
上から押さえ付けられても納得いかない。
このまま何事も無かったように学校生活を送り、美辞麗句な文を書いて卒業する事なんか出来ない。
いつか必ず後悔する。何故あの時、疑問を不満を声に出せなかったのだろう。行動に移せなかったのだろう。
別に良い事をしたいが為の動機じゃない。
自分たちも試されているのだ。
自分たちにも知る権利がある。
疑問を不満を声に出せる一人一人の人間として。
さすがに自分の中学時代、こんな大事件は当然ながら起きなかった。
しかし、いじめやそれを見て見ぬ振りする偽善は確かにあった。
生徒たちを分かったようで何も分かってない、上から押さえ付けるだけの先生も確かに居た。
ただ懐かしいだけじゃない苦い思い出が間接的に蘇り、ちくちく胸に突き刺さった。
親・教師・警察に実力派が揃ったが、何と言っても存在感を放つのが、オーディションで選ばれたフレッシュな新人たち。
本作で文字通りのデビューを飾った藤野涼子が見事な達者な演技。芯の強さ、役名を芸名にした本気度も感じ、これから楽しみな逸材だ。
大出の弁護を担当する神原役の板垣端生はその役柄を含め後編の見所の一つとなる筈。
驚いたのは、樹理役の石井杏奈。E-girlsのメンバーなんだとか! ニキビ面でアイドルとしての魅力を封印し、とある二つのシーンの笑みは身の毛がよだつ。いじめられるシーンは悲痛なくらい生々しい。
判事を担当する事になったインテリメガネくんがなかなかナイスガイ!
脇を固めた豪華キャストでは…
「幕が上がる」とは真逆の精神薄弱な黒木華先生。(写真を見るとあるシーンがゾッとするホラー!)
唯一生徒たちに理解を示し、学校裁判も後押ししてくれる松重豊先生が胸を熱くさせる。
えっ、こんな所で!?…で終わった前編。
波乱の中、いよいよ学校裁判が開廷する…。
見る前から期待していたが、期待通りに面白かった。
前編後編一緒に借りて来て、すぐ後編も見ようと思ったが、レビューを書きながら自分の感じた事そのままに前編をまとめ。
書いた事だし、さあ、後編見るぞ!