劇場公開日 2014年10月18日

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まほろ駅前狂騒曲 : 映画評論・批評

2014年10月14日更新

2014年10月18日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

重さと軽さのブレンドが絶妙なバディ・ムービーの真骨頂

買い物袋を提げた多田(瑛太)と行天(松田龍平)が歩いている。3年(劇中の時間では2年)の月日を重ねてきたふたりの佇まいは、それだけでなんとも味わいがある。そして、少し後ろをゆく行天がタバコを一服しようとすると、“案の定”といった具合でちょっとしたアクシデントに見舞われる。コミカルでいて、本作のエッセンスの凝縮された鮮やかなオープニングだ。

前作(「まほろ駅前多田便利軒」)では多田が自らの過去と向き合ったが、本作は行天のターン。ふたりは、かつて行天が精子だけを提供して凪子(本上まなみ)が出産した娘はる(岩崎未来)をしばし預かることになる。また、まほろ町では自然食品栽培を謳う怪しい団体が活動しているのだが、ここの代表・小林(永瀬正敏)もまた、かつて行天と浅からぬ関係があった。

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老人介護、人工授精、同性愛者のキャリア形成、カルト宗教……そんなシリアスな要素も大上段に構えることなく、あくまで1人1人の事情として描かれていく。なんといっても、ふたりは便利屋なのだ。どんな個人的な依頼にも対応し、トラブルを解決する。行天の手当の施された小指のように、また動くならそれでいい。ただし、傷跡は残る。大森立嗣は、一貫してその傷跡の疼きにこだわってきた監督でもある。いつだって傷跡の疼きに気づかせてくれるのは、側にいる大事な人だ。行天の口ずさむナンバー、伊東ゆかりの「小指の想い出」が耳に残る。

重さと軽さのブレンドが絶妙だ。大根仁監督によるドラマ版(「まほろ駅前番外地」)のポップさが、本作にいいフィードバックをもたらしているように見えた。岡(麿赤兒)、山田(大森南朋)、亜沙子(真木よう子)、シンちゃん(松尾スズキ)……といったおなじみの面々との再会もうれしい(とくに、シンちゃんがまたやらかしてくれる)。ただ、そのぶん本作の重要なキーマンである小林のキャラクターが薄まっている感もあるが、必要十分な説明は永瀬の演技で補われている。

原作ともにまだまだいけるでしょう、続編。べつに競う必要はないが、松田龍平の“相棒”ポジションがかぶっている「探偵はBARにいる」シリーズ(あちらも面白いけど)よりも長く続けて、日本映画界にバディ・ムービーの金字塔を打ち立ててほしい。いや、多田と行天が並んで歩いていく、その道行きをいつまでも見ていたい。

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