フランシス・ハ : 映画評論・批評
2014年9月2日更新
2014年9月13日よりユーロスペースほかにてロードショー
夢みる頃を過ぎても大人になれない、愛すべきダメ女に共鳴!
“ダメ男”は映画のサブジャンルの中で最もポピュラーであること間違いなしなのに、なぜか心の底から共鳴できる“ダメ女”映画は少ない。こうした不満を、一気に吹き飛ばしてくれる快作がやってきた!
ヒロインは西海岸からニューヨークに出てきたダンサー見習いのフランシス、27歳。同居中の親友ソフィーとは「セックスなしだけどレズの熟年カップルみたい」に親密で、彼女とじゃれ合っている時間がいちばん幸せ。ところが、その親友が現実を見つめて前へと進み、フランシスは置いて行かれてしまう。
なんといってもフランシスというキャラクターが面白くて瑞々しく、チャーミングなことこの上ない。美人なのに男子から“非モテ”の烙印を押されてしまうのは、ガキっぽくて間が悪く、鈍感なせい。かなりブザマな27歳だ。しかしこのフランシス、凹んで当然な出来事が起きても、止まらない! ウジウジ悩んだり愚痴ったりしないし、ソフィーに対しても拗ねたり責めたりしない。あちこちに青あざを作りながら迷走を続け、踊り続けるのだ。これを応援しないでいられるだろうか?
フランシスは演じるグレタ・ガーウィグと、ノア・バームバック監督とが共同で生み出したキャラクターだ。ガーウィグは“マンブルコア映画(若い映画作家たちによる低予算映画のムーブメント)の女王”といわれ、脚本・監督も手がけてきただけに、リアルな感触がたまらない。そんなフランシスの疾走感、ライブ感を映し出すモノクロ映像は、ウッディ・アレンの「マンハッタン」よりむしろ、ヌーベル・バーグの作品を彷彿とさせる。トリュフォーやゴダール映画のスコアが使われているし、街を踊りながら走るシーンに「モダン・ラブ」がかかれば、カラックスの「汚れた血」を連想せずにはいられないだろう。
そうそう、このタイトルについて「ハ?」と思うのも当然。しかし絶対にネタバレ情報は避けるべし。この映画を見ることは、タイトルの意味を発見しに行く旅でもあるのだ。
(若林ゆり)