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映画レビュー
濱口監督の自主映画
濱口竜介監督の東大時代の自主映画だ。8ミリフィルムで撮影された作品で、前半は亡き先輩がやり残した映画を完成させるために、残された者たちが喧々諤々やりながら撮影していく話で、後半はその完成された映画、という二部構成になっている。濱口監督自身も出演していて、気取った映画青年役を演じている。彼が旗振り役となって、先輩の残した映画を感性させようぜとなるのだが、微妙に周囲から浮いているのが可笑しい。
濱口監督は、『親密さ』という作品でも、前半は演劇作り、後半はその演劇をそのまま見せるという作品を作っている。最新作の『ドライブ・マイ・カー』でも演劇作りのプロセスを描いているが、作品作りのプロセスとその完成した作品の二重構造に注目する視点は、すでに自主映画時代に発揮されている。
自主映画だから技術も芝居も粗いが、この二重構造が生み出す多層なリアリティと人間の多層なあり方が特別な緊張感を生んでいて、最後まで目が離せなかった。
原初的な映画体験
これまで、ドライブ・マイ・カー→偶然と想像→不気味なものの肌に触れる→天国はまだ遠い の順に鑑賞し、濱口作品5本目。
まず、学生作品とは思えない描写、構成力、そして8mmでこれだけの作品を撮り上げた腕力に驚く。
プロの作品と比べてしまうと技術的に未熟な部分が散見されるものの、はっとするような魅力的なショットが随所にちりばめられ、最初にこの作品を観ていたら、この監督は映像を先鋭化させる方向に向かうのではないかと想像したかもしれない。
しかし、人物(と言葉)にフォーカスする方向に向かったと思うので、そうか、そっちに行ったんだというのが個人的な感想。
喪服でサッカーをするショット(ワイシャツの白が綺麗)、女の子が空港の階段を駆け上がるショット、夜の競馬場の光と影、レースの躍動、最後に主人公が飛び出すように走るショットなどが印象に残った。
さらに、劇中劇で女の子が辞書を読み上げるシーンにおける、言葉の洪水と波紋のように広がる意味、8mmの限界に挑戦するような長回しに、映画的な感動を覚えた(ちょっと長いけれど)。
原初的な映画体験ができる作品ではないかと思う。
あとは、学生映画サークル特有のだるさがよく出ているなとか、DAYライトとタングステンというワードを久しぶりに聞いたなとか、主人公の煮え切らない態度(リアルでも劇中劇でも)があるあるだなとか、監督と同年代の人間としては懐かしい感じだった。