劇場公開日 2014年4月18日

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8月の家族たち : 映画評論・批評

2014年4月8日更新

2014年4月18日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

機能不全家族を描いた演劇的ドラマが映画に昇華

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米オクラホマ州の片田舎に、父親失踪の知らせを受けた三姉妹が集まる。そこから始まる家族の秘密の暴露を主体にしたドラマは、同じような機能不全の家族を扱った名作戯曲へのオマージュで埋め尽くされている。母親が薬物依存症、父親がアルコール依存症というキャラの割り振りは、ユージン・オニールの「夜への長い旅路」と同じ。父と母、長女と夫の夫婦喧嘩は、エドワード・アルビーの「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」を連想せるし、物語に自殺が絡む点は、アーサー・ミラーの「セールスマンの死」と共通している。さらに、終幕の母子の葛藤は、リリアン・ヘルマンの「子狐たち」(「偽りの花園」として映画化)を踏襲している。素材はきわめて演劇的。これをどうやって映画らしい映画にするか? 自身で脚色を手がけた原作者のトレイシー・レッツジョン・ウェルズ監督は、その答えをラストシーンに求めた。

上記のような機能不全の家族を描いた演劇は、伝統的に救いのない悲劇として幕を閉じる。「8月の家族たち」も、原作のラストは辛辣かつ悲壮で全く救いを感じさせない。が、同じ題材でも、映画の場合はどこかに希望の宿るエンディングが求められる。「リトル・ミス・サンシャイン」しかり、「ホーム・フォー・ザ・ホリデイ」しかりだ。それを踏まえた映画版「8月の家族たち」は、結末の悲劇性は保ったまま、原作にはない一筋の光明を最後に差し込ませた。

その場面で存在感を発揮するのが、豪華アンサンブル・キャストの中で最も映画スター色が強い長女役のジュリア・ロバーツだ。父親の深い深い絶望と、母親の深い深い孤独を知り衝撃を受けた長女の、その痛みの先を描くのは映画だけのオリジナル。これを、解放感のある大平原をバックに映し出したショットには、演劇が映画に昇華した瞬間の興奮が宿る。この場面での、ロバーツの表情が素晴らしい。アカデミー賞をあげたかった!

矢崎由紀子

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