劇場公開日 2014年3月14日

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「漂流の現場に立ち会っているようだ」オール・イズ・ロスト 最後の手紙 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0漂流の現場に立ち会っているようだ

2014年3月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

予告篇にロバート・レッドフォードひとりしか出てこないが、本篇でもずっと独りだ。同じように絶望の淵に追い込まれ、登場人物が実質たった二人しかいない「ゼロ・グラビティ」の海上版ともいえる。
だが、どちらも人が生きようとする力を描きながら、この2作の味わいはまるで違う。「ゼロ・グラビティ」は娯楽作品だが、この「オール・イズ・ロフト」は純粋に人間ドラマだ。

インド洋を単独航海する名も知れぬ男(クレジットでは“Our Man”)。演じるロバート・レッドフォードが77歳だから、そのままの年齢設定なのだろう。この年齢で、なぜ単独航海に出たのか理由も明かされない。冒頭で読み上げられる手紙の内容から家族はいるようだ。

これまでも単独航海するヨットが荒波にのまれながらも悪戦苦闘する映画は数多ある。実話を元にした「ダブ」(1975)は17歳の高校生が世界一周する話で好きな映画だ。
ところがこの作品でヨットを操るのは70代。身体の動きが遅く、キャビンの遮水板を抜き差しするのも難儀する。航行装置も無線も水を被って使い物にならず、GPSなどに頼りきった航海しかしてこなかった男は自分の位置さえ分からない。太陽の位置から緯度を測定する六分儀は、買ったままで箱の封も切られていない。説明書を読むのにも老眼鏡が必要だ。イージーミスもする。つくづく、この年齢での単独航海は無謀に見える。

それでも、さすがに知識や経験は豊富で、生きるために出来る限りの方法を試みる、このたったひとりの男の奮闘に釘付けになる。ひとりだから台詞がない。狭いヨットの上で黙々と作業するロバート・レッドフォードは、本当に洋上で疲労困憊したと思える男を体全体を使って表現する。時折、海中の生き物たちを捉えた映像、波や風の音、音楽もよく、この男の行く末がどうなるのか案じられる。

それにしても、船というのは、ずいぶんと色んな物を装備しているものだ。男の運命も気になるが、最新の装備品には眼を見張るものがある。

万策尽きた男は、やるだけやったことを家族に知らせたくて、届くのか分からない手紙をガラス瓶に託す。

マスター@だんだん